依り代がたどる道 第10歩目


 

 近くにいる知り合い合いよりも、遠くにいる知らない人に話しやすいのは分かる。

だから、自分のことを何も知らない僕に話したのだろうか。

ただ、そこまで信頼できるような僕ではないと思うのも事実。

 そんな話をされても、困るというのが本音だ。一応、あのようには言っておいた。

果たして、あそこで言うべき正しい言葉が選べたのだろうか。

本音ではないと言ったら嘘になる。それでも不安は残る。

 彼が戻ってから、僕はひとり考えていた。彼が身の上話をしだして正直驚いた。

確かにあの表情は引っかかりを覚えた。けれど、気にすることでもないと思っていた。

地雷を踏んでしまったから、信用を失ったのではないかと思っていた。

しかし、気になっていたことを彼の方から話してくれた。

話してくれなければ無視していたんだろうし、彼のことについては向こうでいくらでも聞ける。

はなから直接聞くのも悪くない。ただし聞いたその時、僕がどう思うかはまた別の話だ。

そんな風に考えていると、いつの間にかはなが隣に立っていた。

「おや。貴方までどうしたんでしょう?」

「すみません……なんだか眠れなくて」

波の音がうるさい、わけではないのだろう。向こうにいるよりかは眠れていると言っていた。

「そういえば、先ほどまでつゆ君と話してたんですよ。すっかり騙されちゃいました。

裏じゃ、相当仲悪いんですってね?」

「話してしまったんですね……あの馬鹿は」と頭に手をやった。

「一応、向こうに戻る前に言っておくつもりではいたんですが……」

「嘘がつけないんでしょうね……でも、仲良くなりたくないとは言っていませんでしたから。きっと時間の問題でしょう」

「そうでしょうか」

「大丈夫ですよ。きっと」

嘘が本当になる日は遠くない。後は、どう彼と向き合っていくかだ。

「おーい……?」

戻っていたと思っていたつゆがまた来ていた。手に何か持っている。

「あれ? どうしたの?」

「これ、落としてたけど?」

「……ああ。気がつかなかった」

瓶が彼の手に渡される。

「こんなでかいの落として気がつかなかったのかよ。で、何入ってんの?」

一瞬、それを見て僕の頭は止まりかけた。それと同時に頭は動く。

どうしてこんなものを持っているとか、一体どこから手にいれたとか。

どうするつもりだったのかなどの質問は全て飲み込んだ。今、彼がいる目の前で聞くべきことではない。

ややこしいことになる前に、戻ってもらおう。

「ていうか、こんなの持ってきてたんですね。薬が欲しいなら言ってくれればよかったのに。

つゆ君は? 眠れないって言ってたけど」

「俺はいいや。じゃあ、渡したから。アンタも早く寝ろよー」

手をひらひらと振って、下へ降りていった。その姿を見て胸をなでおろす。

あまり気にはしなかったようだ。そして、しばらくの沈黙。

「さて、僕の言いたいことは分かりますね?」

ため息混じりに言う僕。

「……大体は」

彼は視線を泳がせている。

「これは一体どういうつもりなのでしょうか? 

今回、たまたま僕しかいなかったからよかったようなものですよ? こんな危険なものを持ち歩いて……全く」

「……はい。すみません」

「謝って済むなら、僕はここにいませんよ。これは僕が預かっておきます。

とにかく今日は遅いから。明日の夜、小屋の前に来てください。詳しいこと、聞かせてもらいますからね」

彼の手から瓶を奪う。

「大丈夫。そのつもりじゃないのは分かってます」

「……え?」

「んじゃま、明日も頑張りましょー」

腕を伸ばしながら、小屋へと戻っていった。

 

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