近くにいる知り合い合いよりも、遠くにいる知らない人に話しやすいのは分かる。
だから、自分のことを何も知らない僕に話したのだろうか。
ただ、そこまで信頼できるような僕ではないと思うのも事実。
そんな話をされても、困るというのが本音だ。一応、あのようには言っておいた。
果たして、あそこで言うべき正しい言葉が選べたのだろうか。
本音ではないと言ったら嘘になる。それでも不安は残る。
彼が戻ってから、僕はひとり考えていた。彼が身の上話をしだして正直驚いた。
確かにあの表情は引っかかりを覚えた。けれど、気にすることでもないと思っていた。
地雷を踏んでしまったから、信用を失ったのではないかと思っていた。
しかし、気になっていたことを彼の方から話してくれた。
話してくれなければ無視していたんだろうし、彼のことについては向こうでいくらでも聞ける。
はなから直接聞くのも悪くない。ただし聞いたその時、僕がどう思うかはまた別の話だ。
そんな風に考えていると、いつの間にかはなが隣に立っていた。
「おや。貴方までどうしたんでしょう?」
「すみません……なんだか眠れなくて」
波の音がうるさい、わけではないのだろう。向こうにいるよりかは眠れていると言っていた。
「そういえば、先ほどまでつゆ君と話してたんですよ。すっかり騙されちゃいました。
裏じゃ、相当仲悪いんですってね?」
「話してしまったんですね……あの馬鹿は」と頭に手をやった。
「一応、向こうに戻る前に言っておくつもりではいたんですが……」
「嘘がつけないんでしょうね……でも、仲良くなりたくないとは言っていませんでしたから。きっと時間の問題でしょう」
「そうでしょうか」
「大丈夫ですよ。きっと」
嘘が本当になる日は遠くない。後は、どう彼と向き合っていくかだ。
「おーい……?」
戻っていたと思っていたつゆがまた来ていた。手に何か持っている。
「あれ? どうしたの?」
「これ、落としてたけど?」
「……ああ。気がつかなかった」
瓶が彼の手に渡される。
「こんなでかいの落として気がつかなかったのかよ。で、何入ってんの?」
一瞬、それを見て僕の頭は止まりかけた。それと同時に頭は動く。
どうしてこんなものを持っているとか、一体どこから手にいれたとか。
どうするつもりだったのかなどの質問は全て飲み込んだ。今、彼がいる目の前で聞くべきことではない。
ややこしいことになる前に、戻ってもらおう。
「ていうか、こんなの持ってきてたんですね。薬が欲しいなら言ってくれればよかったのに。
つゆ君は? 眠れないって言ってたけど」
「俺はいいや。じゃあ、渡したから。アンタも早く寝ろよー」
手をひらひらと振って、下へ降りていった。その姿を見て胸をなでおろす。
あまり気にはしなかったようだ。そして、しばらくの沈黙。
「さて、僕の言いたいことは分かりますね?」
ため息混じりに言う僕。
「……大体は」
彼は視線を泳がせている。
「これは一体どういうつもりなのでしょうか?
今回、たまたま僕しかいなかったからよかったようなものですよ? こんな危険なものを持ち歩いて……全く」
「……はい。すみません」
「謝って済むなら、僕はここにいませんよ。これは僕が預かっておきます。
とにかく今日は遅いから。明日の夜、小屋の前に来てください。詳しいこと、聞かせてもらいますからね」
彼の手から瓶を奪う。
「大丈夫。そのつもりじゃないのは分かってます」
「……え?」
「んじゃま、明日も頑張りましょー」
腕を伸ばしながら、小屋へと戻っていった。