依り代がたどる道 第11歩目


 

 背後からページのめくる音。紙のこする音。ため息とたまに漏れる声。

僕はひとりが嫌になったときにここに来た。それは寂しいからだと、大分前に気がついた。

彼らが帰って来ないことに、何となく気がついていたのかもしれない。

離れる理由がほしかっただけかもしれない。僕は座った。

灰色の天井を眺めながら彼が読み終えるのを待っていた。

 次に目を開ければ、灰色が目に飛び込んできた。

あれから天井を眺め続けていたのは覚えている。

そこから記憶が途切れている。どうやら、眠ってしまったらしい。

「おはようございます。学者殿」

「……あれ?」

はなが隣に座っていた。

「私が全部読み終えた頃には、眠っていたんです。起こすのも悪いかと思って……」

全く記憶にない。いや、眠っていたのだから覚えていないのは当然だ。

「叩き起こせばよかったのに」

「叩いても起きなかったんですよ……貴方」

そこまでよく眠っていたのか。外で寝た時にシロにも心配をかけていたのを思い出した。

警戒心のなさに呆れてしまう。というか、僕なんか放っておいて先に行ってしまえばよかったのに。

起きるまで付き合っていたのだろうか。この人は。優しいを通り越して、もはや馬鹿なのではないかと思う。

「……どうでした? 彼らの記録は」

「充実した生活が送れていたようで何よりです」

「これで、彼らの思いも報われたというものでしょう。よかったよかった」

とりあえず、見せられるものは見せた。

地上から這い上がってくると、二人が穴の前で待っていた。

「こんなところにいたんだね。おかえりなさい」とシロは出迎えてくれた。

問題はつゆだ。地下から出てきてから、二人の間に言葉がない。

つゆが睨んでいるのをはなが肩をすくめて、見つめ返している。

「黙っててもしょうがないな」とつゆ。

「確かに」とはな。

しばらくして、互いにため息をついた。

「一応、念のために聞く。変なことはしてないんだよな?」

「してない。何を疑っているんだ。全く」

「本当かよ……先生、大丈夫か? 平気か? この人に嫌なことされなかったか?」

「いや、大丈夫だけど」

「なら、いいんだけどさ。何か気に入らないことがあったら蹴っていいから。無理なら、俺が代わりに殴る」

「それは君が殴りたいだけじゃないか……とにかく、私は何もしていないよ。

この下にある囚人たちの日誌を読ませてもらっていたんだ。学者殿にぜひ読んでほしいと言われてな。

それで気が付いたら、お互いに寝落ちして今に至る。

私は日誌を読んでいたし、学者殿もたまに話を振ってくるだけだったから。

それにあの時はお互いに背を向けていたし……」

「分かった分かった。あんたが何もしていないのはよく分かったから……」

とりあえず、納得したらしい。

「ならいいんだけど」とはなは再度、ため息をついた。

 

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