依り代がたどる道 第12歩目


 

 もう彼らが来てから、1か月は経っただろうか。

僕たちがかき集めた本の解析はもっとかかるかと思ったが、思っているより早く終わりそうだ。

人数が多いと、作業の進みも早いということだろうか。

「さて、まずは内容をざっくりと解説しましょう」

管理人の部屋だと、説明しようにもさすがに狭すぎる。

収容所のほうに移動することにした。あそこなら、説明に必要な道具は一通りそろっている。

僕は本を片手に、説明を始める。

数年前に戻った気分だ。机を並べて、僕が前に立って説明を始める。

3人は大人しく椅子に座って、話を黙って聞いている。

「まず、僕のところにあった本からです。これは主に日記とか、彼らの生活をまとめたものです。

この本の書き手は、この島に訪れていた依り代たちなんです。

第一収容所と第二収容所が、ここにいた彼らの住処だそうです」

ここで『依り代』という単語が出てくる。

きょとんと首をかしげる。何を言っているか分からないって? それは僕も同じだ。

正直、僕だって信じられない。

地下に住んでいた彼らがいなくなったことをいいことに、勝手に改造したらしい。

文句は言われなかったのだろうか。むしろ、許可の取りようがないのかもしれない。

「次に、彼らの目的です。こんなところで何をしていたのか。

この島で依り代たちは休憩していたんです。

長旅の疲れをいやす場所、そして、また次の旅の準備をする場所だったんです」

これまでの記録が僕やあの人のところにあった本だ。

日記には、新しくやって来た人々のことやここから去っていく人々のことが多く書かれていた。

旅から戻ってきた仲間と、旅立っていた仲間のことを書いていたのだろう。

「そもそも、『依り代』とは神様がこの世界に来るときに必要な物なんです。

それに宿ることによって、初めて世界を見るといわれています。

まあ、神様は『依り代』たちの親玉ですね。要は」

 帝国がどうしてそんなものに執着を見せるのか、一体どこで彼らと繋がっていたのか。

そんなことは今は無視。考えたところで時間の無駄だ。

「『依り代』は神様に代わって外の世界に視察をしにいくんです。

神様は砂漠の神殿で彼らの様子を見守っているみたいですね。

ここにある砂漠というのは大陸の西のほうにあるやつで間違いないかと。

確か大陸横断鉄道が走っているんですよね? 砂漠を越えた先にも国があるはずですからね」

 一筆で簡単な世界地図を描く。大陸の一部を斜線で潰し、適当なところに点を打つ。

その点から太い線を端の方まで走らせる。今、ここに大きな地図がないから何とも言えない。

詳しい場所までは把握できていない。ざっくりとした地図だが、はなには伝わったらしい。

「世界中に派遣された『依り代』たちは世界を旅して見て回るんだそうです。

特に何かするわけでもなく、ただ移り変わる世界を見ていくだけだそうです」

すごく適当に聞こえてしまうが、これが本から読み取れた内容だ。

世界をよくしようといった意欲が全く感じられない。

「『依り代』たちは定期的に移動しているみたいなんです。

砂漠の神殿周辺と、諸島と、後は大陸のどこかをぐるぐると。

多分、この島から失踪したのは大陸か神殿付近に移動したからなんですよね」

疑問のひとつは解決した。依り代が行く先さえ分かってしまえば、探しに行こうと思えば探しに行ける。

見つかるとは、一言も言っていないが。

「まず『依り代』は普通の人間と区別がつきません。

それ以前に、自分が神様の使いであることを知らせないそうです。

知らされていないので、自分から気づくこともありません。

これは裏切られるのを防ぐためなんじゃないかと思いますね」

 そもそも知らされない時点で、そのような存在が外に漏れるとは思えない。

本当に帝国はどこからそんな情報を手に入れたのだろうか。

「彼らは自我を持っていて、それぞれ好きな格好をしているんだそうです。

人種や性別、容姿や年齢も統一されていません。ただ、全員白い髪をしているらしいです。

白髪を目印に神様は世界を見るといったところでしょうか」

神様は自分で派遣した者の区別もつかないのだろうか。意外とまぬけである。

「『依り代』は神様の元に帰ることはなく、そのまま役目を終えます。

シロのように誰かに拾われて一緒に暮らしたり、ぱたりと野垂れ死んだり様々みたいですね。

人と同じくらいに生きて、同じように死んでいくんだそうです。

神様が呼び戻すときは、想定外の事態が起きたときくらいです。

この場合で言う想定外の事態というのは、大災害が起きたときやひとつの国が崩壊したときです」

外から直接世界に触れることができない。意外と何もできないのである。

 

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