先ほど金具を留める音がしたから荷物の整理は終わったようだが。いい頃合いだと思ったのだろうか。
「……別に」
「別にって……」
そんな簡単な一言で済ませられるわけがないだろう。
「なあ、正直に言っていい? 誰かに俺を殺せとか言われたことはあるんじゃないの?
俺はとんだ嫌われ者みたいだし? 言われててもおかしくはないと思うけど?」
そう言われて、学者殿に取り上げられた瓶を思い出した。
瓶の中身は彼は知らないはずだ。一応、誰が作ったかも分からない薬ということになっているのだ。
「ほらな……で、誰から言われた? 俺には心当たりが多すぎて分からないや」と面白そうに話すつゆ。
こんな反応を示しているのだ。知ったところで驚きもしないのだろう。
いつもみたいに「そうか」と、素っ気ない返事が返ってくるだけだ。最も、面白い要素はないと思うが。
「君の知らなくていいことだよ。つゆ。それこそ、君には関係ない」
「……知るも知らないもないと思うけどね。あれだけ見られているんだから。
俺がいるだけで、あんな嫌そうな目でな。巻き込まれるアンタもたまったもんじゃないと思うけど?」
「確かにまあ、君に対しての苦情や愚痴は嫌というほど聞いたけど……そんな言うほど気にしてないよ」
「どうだかな」
「……最初にも言っただろ。私は君を手にかけるつもりはない、と。
一応、君を信じて言ったつもりなんだけど」
「とは言っても、その言葉自体が信じられないんだけどな」
信じられないという割には殺しにこない。私を傷つけすらしない。
私にはそちらの方が分からない。私の言葉を珍しく聞いてもらえているのがうれしいのと同時に不安でもある。
「そのうち殺しに来るんじゃないかって、今でも思ってる」
「……そんなに死にたいか?」
少しだけ声が低くなった。こんな声を出したことに、自分が少し驚いた。
「別にそういうわけじゃ……」
「なら、そう簡単に言うな」
いつもの調子に戻る。実際に彼を相手にすれば、骨一本くらいなら持っていかれてもおかしくない。
まず無傷では勝てないんだろうな。何となく、そう思ってしまう。
「それじゃあ、逆に聞こう。私は君をどうすればいいんだろうね?」
「……分からない」
しばらく黙って、考えた答えがそれか。少し期待をしていたのだが、残念だ。
だが私も同じことを聞かれたら、同じことを言うかもしれない。あまり人のことは言えないかもしれない。
「いろいろと話したいことがお互いに溜まってるみたいだ。この際だから、言いたい放題言おうか」
向こうに戻ったら、ちゃんと話しあわなければならない。いつまでも、目をそらしているわけにはいかない。
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