白く塗りたくられている建物の前に立つ。透明な窓は規則正しく並んでいる。
清潔感のある建物。中は見えない。はなたちのいる本棟とは少し離れた場所にある。
ちなみに第二収容所の管理人としての僕の部屋も与えられている。
そこには一度も立ち入ったことがない。趣味の悪い管理人と顔を突き合わせることになるのは目に見えているからだ。
病棟に入るのは久しぶりだ。中に入って、受付係と目が合った。僕を見て目を大きく見開いた。
「おひさしぶりです。隊長殿」とためらいながら僕に言った。
おばけだとでも思われたのだろうか。それだけでなく、廊下を歩いているだけでも一回は凝視される。
すれ違う人々に軽くあいさつをされたり、目をそらされたりと、見せ物にでもなった気分だ。
いくら何でもこれはどうなのだろうか。目的の部屋に着くころには疲れを感じていた。扉を軽く数回叩く。
「はいはい。どうかされましたか?」
しばらくして、扉は開かれた。僕の姿を見て、黒髪は言葉を失ったようだ。
僕と同じように白衣を着ている。何年ぶりにお互いに顔を見たのだろうか。その顔を見て少しだけ安心する。
「やあ」と片手をあげる。何も反応せず、僕の顔をじっと見ていた。
しばらくして、ようやく言葉を紡いだ。
「ひさしぶりだな。元気にしてたか?」
黒髪、みかんは両手を広げる。腕に巻かれた橙色の布も変わらない。医療班の方の幹部の一人。
「まあ、こんなところにいるのもなんだしな。ちょっと中で話すか? 今なら全員いるけど」
「あれ? 隊長?」
みかんの後ろから髪の短い茶髪が現れる。死体処理班の方の幹部、くちば。
もともと人数が少ない死体処理班を僕と仕切っている。
一人でも大丈夫だったのだろうか。白衣の汚れがかなり目立っているように思える。
「おお! 隊長だ! 元気?」
「元気だよー」
「ていうかすごい久しぶりだね! 入って入って!」
彼らは僕を中に招き入れた。みかんとくちばが二人で座り、僕は向かい合わせで座る
。鼻をつく独特のにおい。この部屋に限った話ではない。この建物内に充満している。
自然界ではまず発生することがない。この人工的なにおい。
「あ! 隊長! 無事に帰って来たんですね!」
少し遅れて部屋にに飛び込んできたのはぼたん。みかんと同じく医療班の幹部の一人。
長い髪を桃色の細い布で縛っている。走るたびに馬のしっぽみたいに揺れる。
「あれ? 前よりやせましたね?」
「そう? 体調は崩していないんだけどなー」
ぼたんは首をかしげつつ、診断書を机の上に置いた。
規則正しく食べていたとは言え、食事が偏っていたのだろう。一度、健康診断を受けた方がいいのかもしれない。
「それにしても、よく五体満足で帰って来れたよね。
第一部隊の隊長殿と補佐官殿、あの二人って結構危ないってんで有名なんだよ?」
「ああ、みたいだね。大体話は聞いてる」
「特に青いのからは何かされてないか? アイツは血の気が多くていけないからな」
「いや、何も」
「本当に? 何もされてないの?」
「うん」
むしろ妙に懐かれてしまったのが現状である。三人で顔を見合わせる。