僕たちは逃げるように道を進んでいった。嵐が去った後の様に静かだ。
「まさかあそこにいるとは思いませんでしたよ。
周りの人が避けて通っているから、何かとは思っていたんですが」
本当に機会が悪い。できれば、無視してほしかったくらいだ。
「それで、何をしていたんです? あんなところで」
「特に何も。あの人の言っていた通り、つい先ほどまで情報共有してたんです。
依り代のことやらつゆ君のことやら。いろいろと」
「そうだったんですね、てっきり何かあったのかと」
ほっとしたように、息をつく。
「ま、あの人のことですからね。殺さないなんて選択、与えてくれるとは思えませんよ」
この言葉に、彼はぴくりと反応した。
「あまりつるまない方が身のためです。あの人は自分の目的のためなら手段を選ばないから」
あの人は誰だって利用する。よほどのことがない限り、自分からは絶対に動かない。
それはこの人だってよく分かっているだろう。
「だから、毒なんて渡されたんじゃないですか?」
オトモダチだから、それはあの人にとっては都合のいい言葉でしかない。
白黒はっきり決めていれば、今頃こんなことにはならなかったのに。
足を止めて、はなは僕をまっすぐに見る。
「ひとつ聞いてもいいですか? どうして彼らを誰かに任せたりせず、自分の手元に置いているんです? つゆ君ならともかく、シロは僕たちのところにおいてもいいと思ったんですが」
「別に私自身が嫌ではなかったからですよ」
「そんなもんなんですかね」
「学者殿だって、囚人たちの面倒を見ていたでしょう。嫌がらずに」
「アレは頼まれていたからですよ。他にする人もいませんでしたから」
あの時の状況と今では話がまるで違う。少なくとも、同一にはできないはずだ。
「それなら、つゆ君はどうしてでしょう? 彼を嫌う人間は多い。
彼の行ってきたことも、当然、分かっているでしょう?
それらを把握している上で、どうして近くに置いておくんですか?
正直、あなたが執着しているようにしか見えないのですが」
「執着しているつもりはありませんよ」
「残念ながら、そんな風には見えないんですよ」
「そうなんですか」
「ずっと二人でくっついてりゃ、そりゃあね」
「確かにそうかもしれませんね」
うなりながら考えているあたり、納得いっていないようだ。
深く考えるほどのことなのだろうか。自覚がなかったら、相当質が悪い。
僕にはどうしようもできない。
「あの人と同じことを聞くんですね。そこは管理人同士と言ったところでしょうか。
確かに同情しましたよ。かわいそうだとも思いました。
ですが頼まれなくても、助けていたと思いますよ」と半ば面倒くさそうに答えていた。
同じ質問を何度も繰り返しているからだろう。いい加減、うんざりしているのかもしれない。
「同じにするなと言いたいところですが。
ま、そんな優しすぎるあなただからこそ、あの二人を放っておけなかったんでしょうね。
その性格はうらやましい限りだ」
「どうも情が移りやすい性格でしてね。人を切り捨てられるような冷徹さがどうにも欠けているみたいで。
困ったもんです」とお互いに肩を落とした。