次の日も、同じ時間に彼女を連れて向かう。昨日と全く同じ部屋の状態で、出迎えられた。
シロが帰ってから機械の処理が終わったとのことで、3人で画面へと向かう。
「名前は……書いてない?」
シロは本土の港から離れたその数日後には、僕の島に到着している。
本来なら、地図の上に名前が表示される。その名前は港から旅立つときと、僕の島にいる間は名前がある。
だが、移動している間、その名前がそこには載っていなかった。
「へえ。商店街のど真ん中で消えたんだ。それも早朝に。もしかしたら、誰かに見られてるかもね。
その割には、騒ぎになっていなかったような気もするけど。あの二人は、その辺をどう見ているのかしらね?」
彼女の話を聞いて、顎に手を当てる。ありえないことが起きて、悩んでいるように見せる。
これでしおんの言っていたことが真実となった。
彼女は竜巻を起して、僕のところにやって来た。その理由は、今も分からない。
「まあ、これを見て分かってもらった通り、この子が移動している間の記録はあるけど、名前がないの。
向こうの島まで移動している間だけ、別人になってるみたい……心当たりある?
ていうか、どうやって移動したの? 船に乗った記録はないみたいだし。
あの距離、空でも飛ばないと無理だよね? まさか、泳いだの?」
「そんなわけないでしょ……だって、私、泳げないもん」
「あ、そうだったんだ。実はね、私も泳げないのよ。そんなわけで、夏は海より山なわけ。
野外での宿泊、楽しいわよー? 爽やかな空気を感じながら、自分たちで寝床を組み立てるわけ。
そんなことしてたら一日なんて、あっという間に過ぎちゃうもの」
「へえ、そうなんですか?」
「あららー。泳げる人はいいわねえ。出会いの場もあるしー、盛り上がるしー、何より周囲の空気が根本的に違う物ねえ?」
じろりとこちらを見る。泳げるだけで、そんなに変わるのだろうか。
海でも、その気になれば野外宿泊はできると思う。
しかし、彼女の視線がそれ以上の反論は受け付けないと言っている。
「山……この辺にあるの?」
「砂漠ならあるんだけどねえ……登山に行けるような場所はないかも。電車に乗って行かないと」
「そっかー」
「山に行きたいなら、ぜひ相談してね。いろいろ教えてあげるから。
それに多分、あの二人に言えば連れてってくれると思うしね。
それで、だ。話を戻しましょう。この、大移動とでも呼べばいいのかしらね。
自分でやった、わけではないんでしょ? なら、信じられないけど誰かが彼女を動かした、のかな。
だから、名前が違うのかも。何だか郵便物みたいね。でも、名前を変えた理由が思いつかない。
そもそも、そんなこと誰がやったの? 何でこの子なの?
こんなばかげたことをやった理由は? 何で調べないのかしらねー?」
とにかく、疑問が尽きないらしく、ぶつぶつと言っている。
まさか、神様がやりましたなんて、口が裂けても言えない。
確定したわけでもないのに、言いふらすわけにもいかない。だから、黙る。
「とりあえず、変なのに関わってないでしょうね?
こんな子どもを巻き込んじゃ、ダメなんだからね?」
「僕に言わないで下さいよ……あの二人が面倒みていたんですから」
「まあ、そうなんだけどさ。あの隊長はともかくとしてさ、つゆ君、相っ当嫌われてるでしょ?
結構危ない子みたいだし。そういえば、よくあなた生きていられたわね。
首切り死体の状態で見つかってもおかしくないとか思っていたのに。
ていうか、すんごい仲良くなってない? 何で? あんな性格だったっけ?」
心配している割に、そこまで酷いことを考えていたのか。