その日の夜はやけに風が強く吹いていた。
今日のことをはなとつゆの二人に話している最中も、窓はカタカタと揺れ、館全体で風の音が響きわたっていた。
それが不思議と、歌っているようにも聞こえるのだ。
その音で僕は目覚めた。なぜか、落ち着かない。心がざわざわと騒いでいる。
だから、廊下から外を眺めていた。木々が大きくしなり、葉があちらこちらへ舞っている。
突然、ばっと窓が開け放たれた。強い風が吹き込み、後ろに飛ばされた。
僕は慌てて立ち上がり、窓に手をかけた。風が思いのほか強く、やっとの思いで窓を閉める。
吹き荒れている風の中心にあの子がいた。長くて白い髪が舞っているあの子。
シロが竜巻のごとく吹き荒れている風の中にいた。そして、名前を呼んでも反応しない。
こちらのことにもまるで気がつかず、彼女はかぜとともに舞い上がり、姿を消した。
「つまり、あの子が風を起こして浮いていた。ということですね」
こんなとんでもない話をしても、はなは落ち着いている。今朝、一番に二人に話した。
今までの報告にあった通り、都市伝説にもなったように、彼女は竜巻を起こして姿を消した。
「とてもじゃありませんが、信じられません……と言いたいところなんですがね。
現にあの子はどこかへ消えているのが何回もありましたし、これまでで分かったこともありますから。
不思議でも何でもないのでしょう」
「で、竜巻に乗って消えたとして、どこに行ったんだ?」
はなの机の上に地図が広がっている。場所を知るだけでなく、探したい人の居場所を確認できる。
シロが消えて収容所へ行ったときも、これを使って僕のところに来たのだろう。
現在、彼女は隣町にいる。その先には砂漠が広がっていて、神がいるらしい神殿もある。
この前、話した通りだ。依り代は神殿に向かっていると考えられる。
「もう少し情報を集めておきたいところでもありますが……仕方ありませんか。
準備ができ次第、彼女を探しに行きましょう」
はなはそう言って、この場を締めくくった。予想通りと言えば予想通りだ。
結局は神のいるところに向かっていたはずだ。ただ、少しだけ気に食わないのも事実だ。
彼女が姿を消すことで、僕達が探しに行くのは分かっているはずだ。
神に呼ばれている。そんな気がしてならない。何にせよ面倒だと、僕はひとり呟いた。
「まーた、そうやって隊長の席を空けるんだな。で、今度はどこに行くんだ?」
不満げに僕を見ながら、みかんは言った。
依り代が隣町に消えたと言う話を聞いて、僕がこの場を離れると思ったのだろう。
だから、今日はどうにも不機嫌だった。
「隣町さ。今回はすぐに帰ってくるから、そんなに心配しなくても大丈夫」
書類を片付けながら、僕は笑ってみせる。隣町は長居する場所でもなければ、理由もない。
だから、数週間もすれば帰って来る。
「なー、一つ聞いてもいい?」と、みかんは態度を改めた。
僕の作業の手も思わず止まる。
「本当に大丈夫なのか? あの二人について行って」
今更、何を言っているのだろうか。あの島からはどうにか五体満足で帰って来られた。
危険視されている二人とも仲良くやっている。依り代自体にも害があるわけではない。
特にこれといった問題は無いように思える。
「もしかして、心配してるの? 大丈夫でしょ。あの二人、隊長には手を出さないって」
「隊長だって子どもじゃないんですから。ねえ?」
くちばとぼたんの二人はそう言うものの、どこかにやついている。
そんなに心配なら一緒に行けばとでも、言いたいのだろうか。
「大体、ケンカ売るような真似をしなければいいんだよ。
ずっと見ていて思っていたけどいくら何でも態度が悪すぎる。
警戒するのは分かるけど、いくら何でもさすがに駄目だ」
少しきつめに言うと、みかんは口をつぐんだ。