「依り代が消えた」
白い髪を二つに分け、赤いリボンで結んでいた少女。竜巻に乗って、海を越えて僕の元にやって来た少女。
シロと呼ばれ、普通の人間のように生活していた。
彼女が消えたのは、つい昨日のことだ。竜巻の中心に彼女がいたのを、窓越しに僕は見ていた。
木の葉を巻き上げて、館をごうごうと鳴らし、彼女はどこかへ飛び去った。
どうやら、砂漠の方へと向かっているらしい。その中心にある神殿、そこが目的地であるようだ。
なるほど、事前に立てていた推測が当たったらしい。
噂は噂を呼んで、真夏の嵐の如く、様々な情報を伴って駆け巡った。
どの情報も当っていたり、外れていたり、誰もが自由気まま、身勝手に無責任に話し合っていた。
それでも、あくまで噂は噂だ。真実ではない。誰が何を話そうと、僕は別に構わない。
もちろん、医者たる僕の元にもそのような情報は流れてくる。
「あの白い女の子、まーたいなくなったのかい?」
「そうみたいですね。現在、捜索中らしいですよ」
「まったく、親は何してんだ? ちゃんと面倒見ないとダメだろーがよ、なあ?」
「ほんと、そうですよねえ」
僕は軽く笑う。まあ、このような文句も当然あるわけだ。
依り代の捜索に関しては、管轄外だ。ここで言われても困る。文句を言うなら、捜索を任された隊長殿へどうぞ。
そもそも、あの依り代に血のつながった親はいるのだろうか。
家族と呼べるような人々はいたのだろうか。
竜巻を起こしてどこかへとんで行ってしまうこと以外は、人間の子どもと同じように過ごしている。
朝は嫌そうに起きて、普通に食事をして、楽しそうに友達と遊んで、難しい顔をして本を読んで、夜は静かに眠る。
こうして並べてみると、ただの普通の子どもだ。
依り代はただの設定であり、その名前は重荷であると言った人もいる。
彼女の評判は人それぞれだ。
「で、僕も探しに行くわけなんだけど」
やはり、依り代はなくてはならない存在ではあるらしい。
絶対に、何が何でも連れて帰って来いという命令を与えられた。
これは部隊の隊長とその補佐官が任された。依り代の保護者だからだろう。
彼女の面倒を見るのはあの二人の担当だ。それに関しては二人も納得し、すぐに捜索の準備を始めた。
そして、僕も依り代の保護者の一人である。捜索をする二人と一緒に探して来いとのことだ。
この展開もある意味、予想通りと言えば予想通りだ。別に問題はない。
窓の外を見る。寝台列車の個室部屋に僕は一人、代わり映えのしない闇を見つめている。
世界は夜の色に染まり、どこを走っているのかさっぱり分からない。
ただ、車輪の音や車体の揺れる音がするから、決して止まっているわけではないようだ。
腕時計の針はすでに十時を回っている。走行音以外、何も聞こえない。僕一人だけの世界だ。
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