「二、三日で着くって話だけど」
これまで名前も分からない、小さな駅をいくつも通り過ぎていった。
駅を照らしていた光はどこか頼りない。この列車を隣町で降りた後、依り代に関する情報集めをするらしい。
最終的な目標は砂漠にある神殿に向かい、あの子を連れて帰る。
簡単に言っているが、隣町に向かうだけでも鉄道で三日かかる。
とてもじゃないが、気軽に行けるような距離じゃない。最低でも二週間はかかると僕は思っている。
そう簡単には、すぐには戻って来られない。どうしても、時間はかかってしまう。
「またしばらくいなくなるけど、よろしくね」
職場の仲間たちにあいさつしてから、旅立った。一言ずつ、簡単に声をかけた。
「まーた、そうやって隊長の席を空けるんだからな」
しょうがない人だよ。黒髪の彼は不満げに言って、笑う。
「けど、ちゃんと帰ってくるんだろ? 土産話、楽しみにしてるからな」
今回は元の場所に帰ってくる。隣町も、砂漠の神殿も、長居する場所ではない。
ずっとそこにいる理由もない。だから、数週間もすれば帰って来る。
「分かった。また帰ってきたらね」
滅多にしない約束だ。だから、絶対に守らないといけない。
例え、どれだけ時間がかかったとしても、僕の場所に戻らなければならない。
外に広がる夜の闇の中、鉄道は進んで行く。規則正しく車体を揺らしながら、前へ前へと、進んで行く。
この列車に乗って、依り代を探しに行くのを全く想像しなかったわけじゃない。
砂漠の神殿に依り代が集うと言う話を聞いてから、ぼんやりとは考えていた。
この列車を使うのかなとか、この線路を通って行くのかなとか、淡い想像をしていたのは確かだ。
その想像がこうして現実となって、僕たちを電車に乗せて走っている。窓に映る僕の表情はどこか憂鬱そうだ。
「神の見えざる手、か」
どうしても気に入らないのだ。彼女を探しに行くのは、僕たちの意志じゃない。
彼女を呼んだのは、神殿にいるらしい神だ。僕たちの意志とは何ら関係がない。
神の手の上で、遊ばれているような気がしてならない。見えない何かに操られている。それが気に入らないだけだ。
そう考えると、あの二人はかなり割り切っていた。
その姿はまるで、公園で遊んでいる子どもを迎えに行く親そのものだった。
島に来た時は、見ず知らずの僕がいたからか、かなり警戒された。
けど、悪い人たちではなかった。
神なんて関係ないのだろう。保護している子どもが遠くに行ったから、連れて帰る。
たったそれだけの簡単な理由だ。実にうらやましいと、窓に映る僕はため息をついた。
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