この町が知らない顔で私たちを見下ろしている。
表情の見えない人々は忙しそうに歩きそれぞれの目的地へ向かっている。
ここに来るのが久しぶりの私ですらそう思うのだからシロはどんなふうに見えたのだろうか。
知らない場所に一人、置き去りにされて、どんな思いをしているのだろうか。今は何をしているのだろうか。
「本当に来てるのかな。こんなところに」
「地図を見る限りだと、ここを通っているみたいだけど……その後が分からないな」
「神様が名前をいじったりしてたんだろ? なら、シロの名前を消したんじゃないか?」
「それはありえるかもね」
私たちに見つからないように、シロの名前を変えた。二人は地図を見ながら、そう話している。
それだと、私たちに探させる気がないと言っているようなものだ。
神が彼なのか彼女なのかは分からない。ただ、私たちを招いているのであれば、そんなことはしないはずだ。
「で、どうするのさ。俺たちだけだと探しきれないんじゃないの」と、前を歩いていてたつゆが後ろを振り向く。
「この町にいる部隊に協力してもらうつもりだ。
依り代ではなく、あくまでも重要人と言うことで捜索する。
私たちがこうして探すほどなんだから、事情は分かってくれるはずだ」
「依り代って素直に伝えた方がいいんじゃないの」
「依り代と言って通じるのはあの町だけだよ。ここだと、そんなことを言っても分かってもらえない。
よく分からない物を探す気にはならないだろうな」
私がそう言うと、つゆが面倒くさそうにためいきをつく。
「俺たちだって、依り代自体はよく分かってないのにな」
つゆはぼやく。そう思うのは、分からないでもない。
むしろ、あれだけ噂になっていているのに、外の町に広がらない方がおかしい。
黙るように徹底していたとしても、必ずどこかで話は漏れるものなのに。
どういうことなのだろうか。私はため息をつく。
「考えていても仕方ないな。とにかく、今は探すしかない」
ここで思い悩んでも、答えは出ない。今は動くしかない。
「話は聞いてるよ、人探しをしてるんだってね。もちろん、協力させてもらうよ。これからよろしくね」
簡単に挨拶を交わす。本当に依り代と言う名前は使わないで伝えていたのか。
よくそれで話が通ったものだ。ただ、突然であるにもかかわらず、何も疑わずに協力してくれるのは、正直ありがたい。
こんな遠くまで子どもが一人で来られるわけがないだろうし、間違いで来たとしてもすぐに見つかっているはずだからだ。
そこを聞かれなかったのが本当に良かった。
他人に説明をするのがあまりにも面倒くさすぎる。それが依り代だ。
2→