「ここでもだめか……ありがとうございました」
軽く頭を下げた。範囲を広げても、誰もシロの姿を見かけた者はいない。
考えてみれば、竜巻が起きる瞬間を見た人は限りなく少ないのかもしれない。
「あの、シロちゃん、本当にここに来てたんですよね?」
「お手数をお掛けして申し訳ありません。確かに、数日前にこの町に来ていたみたいなんですが」
ため息をつかれる。これだけ探しても証拠一つ見つからないとは思わなかった。
さっさと切り上げて、神殿に向かった方が早いかもしれない。
「ああ、そうだ。うちの子から聞いたんだけど、昨日、危なかったところを助けてくれたんですってね。
ありがとうございました」と、女性は頭を下げた。
よくよく話を聞いてみると、男性ともめていたところを助けてくれたらしい。
青い髪の若い男性で、警備が来るとすぐにどこかへ行ってしまったとのことだ。
つゆのことだろうか。そして、その警備は僕たちのことだろうか。
「お礼を言えなかったみたいだったから、その方に伝えておいてください」
「分かりました」
「あの周辺を歩くとき、注意して下さいね。何かあるか、分かりませんから」
「分かった。よく言い聞かせておくから」
再度ため息をついて頭を抱えているあたり、治安はあまりよくないらしい。
その場を後にして、彼は足を止めた。
今は中央通りを見回っており、人通りはそれなりに多い。
「なあ、本当に大丈夫なのか?」
低い声で聞いてきた。
「何がです?」
「その探してるって子ですよ。
これだけ探して何も見つからないってことは、何かあったんじゃないですか?」
何かあったどころの騒ぎじゃないんだよなあ。と、僕は思いつつ話を聞く。
「何か他に思い当たることとかないんですか?」
彼女の正体が依り代だと分かったら、どんな反応をするんだろう。
少しだけ気になった。
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