しばらくは何の反応もなかった。地図は何も示さない。シロが来ても、僕はバツを刻み続けた。
彼女はそれを不思議そうに見ていただけだった。彼女から何も聞かれなかった。だから、答えなかった。
代わりに彼女をこの近辺の島々に連れて行ってあげた。あの人が管理していた第二の監獄には連れて行かなかった。
あそこには見せられないものや見たくないものが転がっているだろうから。
彼女自身も昨日の話を聞いたからか、行きたいとは言わなかった。
この島々に残っている歴史を僕の知っている範囲で語った。数十年前にもなる。
この島にいた先住民たち。彼らは独自の文明を持っていて、それはかなり発展していたものだった。
当時の帝国はそう簡単に手は出せなかった。
最もなぜか彼らは全員失踪しており、どこに消えたのか未だに分かっていないという。
かつての帝国が全員強制連行したとか、いつか攻め入られるのを恐れてどこかへ逃げ隠れたとか、様々な噂が流れている。
そして、今も世界の七不思議として語り継がれている。他にも、彼らの文字で書かれた書物なども残っていた。
最も、日記や料理本といった他愛のないものばかりだった。
のんびりと島をめぐっているときも、彼らが来る様子はなかった。 意外と手間取っているらしい。
しばらくそんなことをしていると、 ついに地図に白い点がついていた。やはり壊れていなかったという安心感。
見知らぬ誰かがやってくるという緊張感。その二つで自然とため息が出る。
ゆっくりとではあるが、こちらへ近づいているのが分かる。
彼女が言っていた『あいつら』で間違いない。すぐにシロを収容所の一部屋に隠した。
「頑張って」
彼女はそう言った。僕は収容所から出て、小屋を背にして立っていた。
正直迎えることはあっても、待ち構えているのは初めてだった。この際なので小屋を背に仁王立ちして、待っていた。
鬼でも何でも来るがいい。しばらくしていると、遠くに船が見えてきた。
だんだんとはっきりとした形になって僕の前に現れた。最終的には男の二人組みになった。
彼女の言うとおり、金髪と青髪。青髪は剣を下げている。金髪が「はな」、青髪が「つゆ」だったはずだ。
「初めてお目にかかります。学者殿。私ははな。帝国軍第一部隊隊長を勤めさせております」
「……帝国所属第一部隊隊長補佐つゆだ。アンタが噂の学者さんか。初めまして」
シロから二人でいつも行動していると聞いて、てっきり男女だとばかり思っていた。
最初から『男女二人組み』であるとは言っていなかった。少し予想が外れただけだ。 今は、そんなことは関係ない。
「どうも。初めまして。遠路はるばるようこそ、いらっしゃいました。
さて、帝国第一収容所の管理人に何の御用ですか?」
「……そちらに白髪の少女が迷いこんだという情報が入ってね。何か知りませんか?」
「いいえ。何も。船があれば分かるはずですよ。何かの間違いでは?」
「つゆ」
「おっけ」
金髪は彼に呼びかけた。青髪は剣を抜く。太陽の光に反射して輝いている。 最初から、話し合うつもりはないらしい。
「見てのとおりです。できるかぎり、話を早く終わらせましょう。
貴方だって、これ以上面倒ごとは避けたいでしょう? 彼女はどこにいる? 早く出さないと、どうなるか分かりますよね?」
「話し合うつもりがないなら、最初からそう言えばいいのに……」と僕は肩を落とす。
「下手に嘘つかなきゃ、よかったんじゃねえの?」
彼はそう言って、笑みを浮かべる。武道のたしなみが一切ないからよく分からない。
ただ、彼女からの話ではかなりの使い手だという話だ。勝てるはずがない。
それでも、僕の視線は自然と彼に向いてしまう。隣のはなと背丈は大して変わらない。青い髪で毛先が外にはねている。