「『依り代』という単語自体が飛び交い始めたのは敗戦して同盟を結んでからです。
けど、周りの連中も具体的なことは全く知らない。
都市伝説や怪談話のように内容はバラバラで、まるで要領を得ません……上は彼女がその『依り代』だって言うんだけどね」
「ていうか、アンタも分からないんじゃどうしようも……お前さ、何か知らねえの?
俺らんとこに来る前に、何か言われなかったのか?」
つゆは彼女を見る。シロはしばらくしてから、「……何も言われなかった」とぶっきらぼうにそう言った。
彼の顔を見ようともしない。
「……本当に何も言われなかったのか?」
再び聞かれても、沈黙で答えるばかりだ。
「ま、いいけどよ……」
諦めて顔をそらした。話は全く進まない。そもそも、手がかりが全くない。
だが、完全に止まったわけではない。書物ならここにもあるし、向こうの収容所になら数え切れないほどある。
それ以外にも、何かあるかもしれない。
「とにかく、もうこの辺にしておきません? せっかくお二人ともここまで来てくれたんだもの。
本当に何もないところだけどゆっくりしてって」
「いいのかい? 本当に」
「今更何人増えようが僕は構わないよ。まあ、2人とも牢獄送りになっちゃうけど……」
「牢獄送りね……それも悪くねえやな」
「うるさいとは思うけど。まあ、よろしく」
「……まあ、いいけど」
シロもしぶしぶ了解した。ようやく全ての歯車が噛み合い、世界が回り始めた。
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