僕としては『牢獄送り』なんて冗談で言ったつもりだった。本当は3人とも小屋の中で眠ってもらうつもりだった。
牢獄送りになるのは僕の方だった。しかし、彼らは譲らなかった。確かに部屋はどこも空いているから問題はない。
外で寝るよりはるかにマシだ。部屋も向こうの方が広い。ここでぎゅうぎゅうに詰められるよりかは楽に寝られる。
それに彼らいわく、『悪いことをしていないのに牢獄に泊まれるなんてなかなかない』とのこと。
この一言が決め手だった。言われてみればそうだが、皮肉にしか聞こえなかった。
結局、2人にはそれぞれ鍵を渡した。代わりに、入り口から近い2部屋に泊まらせた。何かあってからでは遅いからだ。それにしても、あんなところで眠れるのだろうか。やはりこちらの方がよかったのでは、と僕は床で横になって考えていた。やがて、考えるのも面倒になり眠った。
朝が来て、僕はいつものように板の前に立って、ナイフでバツを刻んでいた。なぜか、これだけは譲れなかった。
習慣という奴だろうか。シロは僕と同じくらいに起きて今は外に出て海を眺めている。
「……おはようございます」
眠そうな声とともに、はなが扉を開けた。金髪は後ろまとめている。 あの堅苦しそうな軍服からシャツだけになっている。
「あ、おはようございます。早いんですね。 どうでした? やっぱり眠れませんでした?」
「いえ、よく眠れましたよ。少なくとも、向こうにいるよりかは」
そう言いながら、はなは小屋の中へと入ってきた。 とりあえず、向こうで問題は特に起きなかったようだ。
少しだけほっとした。
「そっちは? 彼女、うるさくありませんでした?」
「いえ……全く」
「そうですか……なら、いいんですけど」
彼は僕の前にある木の板を見てから、隣に積んでいる板を見た。その1枚を手に取った。少しだけ目を見開いた。
「……こっちに来てからずっと?」
まさかと、僕は首を振った。彼はこれがどういうものであるか、見ただけで悟ったらしい。
1枚につき30個ずつ刻んでいる。この小屋には壁にかけているものを入れて数枚ある。残りは全て牢屋の奥だ。
「彼らがいなくなってから、刻み続けているんです。最初は数えていたんですけどね……嫌になってやめました」
「そうか……ちなみに今日は終戦してから六、七年くらいでしょうかね」
「そんなに経っていたんだ……早いなあ」
「彼らから預かりものがたくさんあるんです。向こうに戻ったら、全部見てほしいんです」
「わざわざ預かっていてくれたんですね。ありがとうございます」
どうやら、この人はつくづく優しい人のようだ。彼らに関することは全てなかったことにされていると思っていたから。
残されているだけでも十分だった。
「だーから! 何だってんだよ! お前は!」
「最初にやったのはそっちでしょ!」
元気な叫び声が響いた。窓の外を見るとつゆとシロだった。彼もシャツになっていた。
二人とも声を上げて、喧嘩をしている。喧嘩の原因は分からないが、つゆも体調に問題はないらしい。
「朝から元気だな……」とはな。
「まあ、いいじゃないですか」と返す僕。
そう言いながら、僕たちは外に出た。