シロを船に乗せて、しばらくこいでいくと見えた。地上には数本の木が生えているだけだ。
やはり、悪魔がすんでいた根城とは思えない。ただの平和な島だ。上陸するのはかなり久しぶりだった。
数ヶ月前、軽く様子を見に行ったくらいだ。もしかしたら、シロと同じく誰か迷い込んでいるかもしれない。
ただ、見つけられるかどうかは別だ。
船着場のすぐ隣に階段がある。地下へと続き、その先は真っ暗だ。中は蟻の巣のように広がっている。
あの人は連れてこられた彼らを『囚人』と呼び、笑いながらいつも問いかけていた。
『ここに来たくらいで、罪を償えるとでも思っているの?』と。
管理人というよりは、悪魔といったほうが近かった。答えのない問題を出して、楽しんでいる。
殺すような真似をしないだけ、性質が悪かった。精神的にじりじりと追い詰めるのがあの人の売りだった。
ランプを片手に、僕たちは階段を下りた。鉄格子の奥はどこも空だった。もう誰もいない。
それを改めて実感した。こちらにいた罪人たちはどうなったのだろうか。やはり、全員死んだのだろうか。
別の空き部屋をのぞいていたとき、ひとつの短い叫びと何かが落ちる音がした。後ろを振り返ると、シロがいない。
「あれ? どうしたの?」
「ここ! 足滑らせて落ちちゃった!」
確かに穴が空いている。真下には何かが動いているのが分かる。とりあえず、けがはないようだ。
「ちょっと待って。そっちに行く!」
僕もそこに落ちた。あまり深くはない。何とか、戻れそうだ。改めて僕がランプをかかげると、両方の壁に本棚が並んでいた。
「すごい……何ここ?」
「図書室だ……こんなところあったんだ」
「知らなかったの?」
「いや、聞いてないな……隠していたんだな。あの人」
隠し部屋には彼や罪人たちが持ち込んだであろう本がきちんと詰め込まれている。
端の方に木箱がいくつか積まれていた。その上に手紙があった。それには僕の名前が記されていた。
どうやら、ここを離れる前に書いておいたらしい。
『やっほー。待ってたよ。君なら絶対見つけられると思ってた。おめでとう。
ここに関しては、ずっと黙っていたからさ。ごめんね? 隠すつもりはなかったんだよ?
囚人たちに読まれても別に困らなかったんだけど、これから死ぬ準備をするのにはやっぱ不要だろ?
変な未練持たれても困るしね』
手をひらひらと振って、笑っている姿がありありと浮かぶ。相変わらず、歪んでいる。
精神的に追い詰めるために、少しで囚人たちから奪うつもりだったらしい。
『ここの本は君の物だ。読みたかったら、勝手にどうぞ。向こうに持っていってもいいし、別に戻さなくてもいいから。
それから、読めなかった奴は箱にしまってある。ああ、手紙の下にある奴全部ね』
手紙の下にある箱。中身は全部本らしい。あの人にしては珍しい。
不要なものはバッサリ切り捨てる。それは人であれ、物であれ関係ない。掃除と片づけが大好きなのだ。
『何がひどいってさ、文字が読めないんだ。あんなの初めて見るからさ。びっくりしちゃったよ。
多分、あれが噂の原住民が残した奴だと思う。勘だけどね。数年分の暇はつぶせると思うけど。
ていうか、もしかして研究しちゃってたりする? 解読できてたら、嬉しい限りだけど』
噂の原住民。失踪した彼ら。関連資料はこちらにも残っていたらしい。
僕が解読するかもしれないからと、そっくりそのまま残しておいたようだ。
ただ、どう思うと聞かれても、正直困る。返答を期待しているわけでもないだろうに。
僕のところにあった本だって、すべて解読できたわけではない。せいぜい三分の一程度だ。
残りは劣化が激しかったり、ページが欠けていたりして、状態が悪く、読めないものが多かった。