依り代がたどる道 第6歩目


 

 僕たちは大量の本と共に島へ戻った。今度は2人が温かく出迎えてくれた。

小屋に入ると大量の本が山積みにされていた。収容所にあるものを持ってきたらしい。

僕が隠していたのは、案の定見つかっていなかった。時間を見つけて、見せたほうがいいだろう。

僕は抱えていた本を全て置いた。大量の本につゆは目を丸くした。

「これ全部か……」

「悪趣味な管理人が僕がいつか解読するかもしれないって、残しておいてくれたんです」

「何て読むの……コレ? 初めて見たんだけど」

シロは一冊手にとって読んでいた。

「これは……帝国の字じゃないな。先住民のものかな。少数とはいえ、彼らは彼らで独自の文化を築いていたからね。

帝国が介入するまでは全くの手付かずだったわけだし……」とはなが横から覗く。

「ってことは、先住民の人たちが本を書いてたってこと? 学者さん、読めるの?」

僕は腰に手をあて、胸を張った。この島に来てからの唯一の功績と言っても過言ではないと思う。

「彼らがいなくなってから、ただ待っていたわけじゃないよ。

帝国は全っ然手をつけなかったけど、こんなことをするのも僕の役目さ。

何せ、貴重な資料なんだ。大切にしなきゃ」

「……」

 あの人の手紙で言われたとおりだ。皮肉にも、確かに数年分の暇つぶしにはなったわけだ。

つゆも一冊を手に取り、ずっと黙って眺めていた。本に釘付けになっていた。

もっとはしゃぐかと思っていたから、少し意外だった。

「だからさ、2人は僕らが持ってきた奴頼むよ。つゆと僕は残りの分を担当するから」

「……え? ああ。何?」

自分の名前を呼ばれ、初めて本から眼を離した。

「おい、今の話聞いてなかっただろ」

「……悪い」

「学者殿と二人でそっちをやってくれ。シロと私でこっちやるから」

「……シロ任せちゃって大丈夫か?」

「問題ないよ。むしろ、学者さんが大変なんじゃない?」

「な……それどういう意味だよ!」

「じゃあ、任せたからね」

はなは笑いながら、つゆの肩を叩いた。

「分かったよ」と彼は短く答えた。

 僕とつゆは地下へ向かった。一番近い部屋に入り、部屋の中心に本を置いた。

山となった本を挟んで僕たちは向かい合った。

訳の分からない文字が綴られている。原住民の文化そのものといって良いだろう。

この島にいた罪人たちが離れてからというもの、毎日これらと向き合っていた。

これくらいしかすることがなかった。しばらくしてから、すべて解読し終わった。

あくまでも文章を読めるようにしただけだ。内容は把握できていない。そのために辞書も作った。

全て手書きなのでかなり読み辛い。今のままでは、誰も得しない産物だ。

 つゆはお構いなしに本をめくっている。内容をちゃんと理解できているのだろうか。

それ以前に、読めているのだろうか。黙々と本を読んでいる。

僕の視線に気づいたのか、呆れてため息をついた。しかし、本から目を離さない。

「……何か気になることでも?」

彼は目線だけでこちらを見た。

「別に」

「何考えてんだか知らないけどさー……そんなに見ないでくれない?」

そう言って、彼はまた本に集中してしまう。

「何でそんなにすいすい読めるの?」

「……」

「辞書ないと無理なのにすごいなあって思っただけ。誰から教わったの? はなさんから?」

「はあ? あの人なんかが知るわけないだろ!」

顔を上げて、声を荒げた。ようやく僕と目が合った。部屋が一瞬だけ、静まり返る。

「あの人、なんか……ねえ?」

ぽつりと言った僕の声が部屋に溶けた。その言葉を聞いて一瞬我に返ったようだ。

「あ、えっと……」

「その手の話に詳しいのは、うーんと。誰だったかな……また思い出せないや」

僕はごまかすように笑った。改めて聞かれるとまるで思い出せない。こちらに来てから忘れてばかりだ。

それとも、最初から覚えようとしていないのか。多分、後者だ。面倒くさくて覚えていないだけだ。

 

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