不思議だ。いつもより口が軽い。一度開けば、どんな言葉でも出てきそうだ。
「周りの連中はさ、俺を見て『青いの』だのなんだのって言うんだ。何でそう思うのか、全然分からないけど……」
「……」
「もちろん、褒められていないのは分かってる。でもさ」
ほめ言葉に見せかけた悪口。嫌な言葉だ。聞きたくもない。
「別に好きでこうなっているわけでもない……生まれつきだしな。ずっと、笑っている。ニヤニヤ顔で、面白そうに」
「そっか……嫌だったよね。聞かれるの」
「でもさ、アンタの場合は何も知らない。純粋な興味って奴なんだろうなって。
だから、話しておこうと思ってさー……」
話しておこうというよりは、話す気になれた。そちらのほうが正しい気がする。
「確かに俺は帝国の生まれじゃない。ていうか、どこで生まれたのかさえ分からない」
「?」
「どうやらどっかの田舎町から越してきたらしい。俺が生まれる前って言ってたかな。
名前までは分からないけど……あの人に聞けば分かると思う」
何も言わずに、黙って聞いてくれている。それだけでもありがたかった。
「……でさ、俺がガキの頃にはまあ普通に大きくなって、何か適当な仕事についてるのかなって思ってたんだけどさ。
あそこには何もなかったけど、悪くはなかったよ」
変な目で見られることもなく、生きていた。それなりに友達もいた。
彼らはどうしているのだろうか。もう会えるとは思えないけど。
「でも帝国のお偉いさんたちに全部持ってかれちゃった。気がついたら、何もなくなってたんだ」
怖い目つきの金色と全てを染めた赤い色。銀色の大きな刃で切り落とされた首。その後は、覚えていない。
「何が起こったか、今も分からない。気がついたら、地下牢にぶち込まれていたんだ」
どうして連れて行かれたのかも、何が起こったのかも、分からないままだ。聞いても誰も答えてくれない。
「バラバラにされちゃった。全部」
戻りたくても、もう戻れない。それだけは分かった。それだけしか分からなかった。
「牢獄ぶち込まれた後は……色んな人のところに行ったんだ。
でも、どいつもこいつも俺のこと変な目で見てきた。狙われている感じがいつもしてて、落ち着かなかった」
寝るときでさえも、誰かに見られているような気がした。多くの目に囲まれていた。
「まあ、最初は本当に偉い人のところについたんだ。仕事は全然任されなかったしお飾りだったけどな」
それは今も変わらない。結局、あの人が全部やってしまうのが現実だ。何もできない。ただ見ているだけだ。
「最初の人はさ、何ていうのかなあ。影で誰かを殺すような人じゃなかったんだよ。
どっちかっていうと、正面から勝負を挑んでいくような人。
そんな風に言われているあの人がさ、寝ていたところを襲ってきやがった」
暗い部屋に彼が入ってきたのを確認して、寝床から逃げられる準備をして待っていた。
のんきに眠っている余裕なんてない。向こうは殺そうとしている。
目の前を赤く染められたあの日のように。剣を振り上げて、斬ろうとしていた。
そのまま転がって、刃から逃れた。すぐに立ち上がって手元にあった剣を片手に。
気がつけば、片腕を肩から斬り落としていた。赤い血が流れて、腕が落ちた。
その後は警備兵が飛んできて、また地下牢に送られた。
そんなことを卑怯なことをするわけがないだろって誰もが言った。