百年の透明から脱色できた日

 

 

私は長い間、ずっと孤独だった。

気づけば、百年が経っていた。ひとりになっていた。

 

結局、自分が何のために、存在しているのかも分からずじまいだった。

何もかもが分からないまま、すべて終わってしまった。

終わってしまった。

 

自分自身が透明になっていくのが分かった。

人々から忘れ去られ、存在が失われていくのを感じた。

色彩を失い、透明になろうとしていた。そのまま風になって星にでもなれればよかったんだろうけど。

 

それを許さない私がいた。許せない私もいた。

だから、抗うように、人ごみに紛れ、歩き続けた。

誰も私を気に留めなかった。

 

それでも、自分がここにいるような気分になれた。

 

 

ふらふらと歩いているうちに、病院にたどり着いた。

透明な自分に、壁なんてない物に等しい。ひゅるりとすり抜けて、適当に歩く。

 

この力だって、正しいことに使いたかった。

もう何を言っても、無意味なのだろうけれど。

 

誰もいない病院をさまよう。幽霊にでもなった気分だ。

意志がその場にとどまっているだけの、亡霊ではあるのかもしれない。今の私はただの残留思念だ。

意識が残っているだけの、透明な存在だ。

 

廊下を音もなく歩いていると、天井を見つめている子どもが目に入った。私も同じように天井を見てみたけど、何もいなかった。

 

「どうしたの?」

 

声は届いているらしい。両目を必死に動かして、私を探している。そうか、この子にも見えていないのか。

 

「眠れないの?」

 

私の手は自然とその子の頭に伸びていた。

少しだけ撫でると、嬉しそうに笑った。

 


冒頭部分の試し読みでございました。

『百年の透明から脱色できた日』は『天井の宇宙人』と同じ冊子に収録して販売いたします。

 

冊子は挿絵がついて、お値段据え置き、ボリューミーな仕上がりとなりますのでぜひお楽しみに♪