依り代がたどる道 第1歩目


 

 僕は地下牢獄へ向かった。牢獄といっても名前だけで、実際は彼らの第二の住まいだ。

だから、罪人たちを新しい家族でも迎えるような気分で受け入れていた。

特にこれといった厳しい規則を設けなかった。あの人もあの人で規則を作らなかったのもあるかもしれない。

代わりに、勉強を教えてあげた。彼らのほとんどはまともな教育を受けられなかったような者たちばかりだった。

向こうで使われる言葉と、計算とこの世界のことを答えられる限りのことを教えた。

向こうに連行されたとき、役に立ったといいのだが。

 僕はそのまま監獄のはしごを伝って下りた。

優しい彼らがここを離れてから、僕は何年間この島に閉じこもっているのだろうか。

バツ印を刻んだ板の枚数を数えればわかるかもしれない。しかし、知ったところで何も変わらない。

帰ってこないのは分かっているのに。その気になれば、ここから出られるのに。

心のうちにもしかしたら、帰ってくるかもしれないという淡い期待が残っている。

帝国からやってきた誰かが『彼らは死んだ』と一言、言ってくれればいい。

そうすれば、僕は諦められるかもしれない。

今でも扉の中からひょっこり出て来るような、錯覚に陥ってしまう。

そんなことはありえない。ふるふると頭を振りながら、僕は一番手前の扉を開けた。

「え……?」

 思わず、間抜けな声が出てしまった。ベッドの上に白髪の少女が横たわっている。

髪をてっぺんで二つに分けて、赤いリボンで結んでいる。真赤なリボンだけがやたら目立つ。

まるで血を流しているように見える。どこから入ってきたのだろうか。

確かにこの島には船を止めるところなんていくらでもある。

何しろ、島全体が皿を逆さまにしたような、平らな土地だからだ。

島の中央に木が一本生えている以外に、視界を遮るものはない。

だから、すぐに分かるはずなのだ。とにかく彼女を僕の小屋へと連れて帰った。

 

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