小瓶は僕の机の中にしまった。向こうに戻るときに、忘れないようにしておかなければならない。
ついああ言ってしまったが、本当のところは分からない。
「何なんだかな……」
僕は呟いて、眠る。それにしても誰もいないところに呼び出すなんて、まるで学校の先生にでもなった気分だ。
そういえば、ここにいた彼らの時もこうしていたのだったか。裏で呼び出して、反省させていたのを思い出した。
その次の日の夜、小屋の前にはなは来てくれた。まるで悪いことをしたのが見つかった子どもみたいだ。
怒るつもりはない。僕にも非があるのは変わりはない。
「来ましたね。その前に、ちょっと見せたいものがあるんです」
「?」
裏手に回り、砂を掘り返す。板があり上に持ち上げる。そこに下に続くはしごが伸びていた。
「これは地下室ですか」
「まー……ここを発見したのは本当に偶然なんですけども。とりあえず、降りてみて」
収容所とはまた別の部屋だ。あちらとは繋がっておらず、完全に孤立している。
ひとりになりたいときは、いつもここに閉じこもっていた。部屋の中には本が置かれている。
「これって………」
「彼らが残した日誌です。これだけは絶対につけさせていたんですよ。
貴方になら、見せてもいいかなって思ったので。それを読みながらでいいので……昨日の話の続きをしましょう」
「……ええ」
僕は壁を見ながら、話を始める。はなは地べたに座って、日誌をめくり始めた。
「なぜ、あのビンを持っていたのかという理由はここでは聞きません。
詳しいことは、向こうに戻れば大体分かりますから」
「……そうですか」
「どんな効果が出るかは、すでにご存知ですよね?」
「2,3時間後に効果が出るから、考えて使えと言われました。
実際に使うのなら、寝る前に飲ませるとか……そんなところだと思います」
僕はゆっくりとうなずいた。正解だ。
「さて、まずはアレを作った理由からですね。
当時の僕は救護班と死体処理班の隊長を任されていました。
薬草はもちろん、食用のものから毒草だって何だって、手に入ります。
毒薬を作れと依頼されることもあれば、僕自身や仲間たちが勝手に作ってしまうこともあります。
その中での、僕の試作品のひとつなんです。アレは」
向こうにいた時もその調査は怠らなかった。いや、あちらにいた時の方が作業はしやすかったかもしれない。
この島近辺で育っている植物を全て調べ上げた。記録にこそ残していないものの、一つ残らず頭の中に入っている。
「……」
「国のために貢献しようとか、どうしても殺してやりたい誰かがいたわけじゃないんです。
言うなら、薬品作りはただの趣味です。
ちゃんと混ぜて、理論上の効果がちゃんと出るのか、調べたかっただけなんです。
そして毒殺された誰かの死体は必ず僕のところに来ます。 それを解剖してみれば、結果が分かるでしょう?
ですから、あんな真似をしていたんです。ただ、託す人をもう少し考えるべきでしたね。
ちょっと考えてみれば、こうなることは分かっていたはずなのに」
「そういえば、その人から薬を渡されたときあの子が作ったと言っていたのですが……」
「まさかと思うでしょうが、そのあの子です。
趣味で作った薬をあのどうしようもないクズな管理人に託してしまい、本当にすみませんでした」
渡した人も最悪だった。あの人に渡せば、結果が速く得られると思ったから選んでしまった。
それにねずみで試しても結果は変わらない。判断不足だとしか、言いようがない。
「僕自身は彼を標的に作ったつもりはさらさらありません。
それどころか、僕や僕の仲間たちに流れていた可能性だって考えられます。
こんなことになってしまったのは僕の責任でもあります」
「……例え、託す人が違っていたとしても同じ結果になっていたと思いますよ。
彼が死んでも誰も悲しまない。誰も嘆かない。本来なら、彼は消えるべき存在、なんですから」
「そんなこと言わないでください。消えたら僕は悲しむと思いますから」
かわいそうだという、言葉は使いたくなかった。代わりに選んだのがこの言葉だ。
「念のために聞いておきますね。本当に、あの人からそう言われたんですか? 彼を殺せと」
「……」
「そうですか」
無言の肯定。あの人も酷なことをさせる。
前々から思っていた性格の歪みが僕のいない間にかなりひどいことになっているようだ。