依り代がたどる道 第13歩目


 

 私とつゆは部屋に戻った。彼女は荷物整理にと時間をくれた。

だが荷物自体は非常に少なかったので、すぐに終わってしまった。

これなら明日にでも戻れそうだ。さて時間が余ってしまった。寝るにはまだ早いし、さてどうしたものか。

 何となく壁に背を預ける。明かりをつけていないからか、どこか薄暗い。

灰色の壁を見つめながら、がさごそと物を整理している音を聞いていた。

それが不意に止まった。どうやら手を止めたらしい。

隣部屋の奴も帰りたくないんだろうなと、思った。まあ、その気持ちは分からないでもない。

そう考えると、仲良しごっこもまんざらではなかったようだ。

「そんなに嫌か? 向こうに戻るの」

波の音が遠くから聞こえる。答えはない。

「大丈夫だよ。別に私たちだけじゃないんだ。学者殿もいる。本当、心強いよ」

「……それでもさ」

「それでも、何?」

「帰っても喜ばれないだろうなって……」

「かもしれないけど……関係ないよ。好き勝手に言わせておけばいい。

周りがうるさいのはいつものことだろ? いちいち気にしていたらきりがないよ」

「アンタは戻りたくないって思わないんだな」

「いつまでもここにいたってしょうがないしな。一応、目的は果たしたんだ」

「そりゃそうだけど。そういえば、いろんな人から先生を連れて帰ってこいって言われたよな」

 シロがいなくなった後、地図の製作所を真っ先に訪れた。

そこの所長からは帰りたがらなくても無理やり連れ出せと言われた。

医療班と死体処理班の幹部達からはどうせ引きこもっているだろうから、何が何でも引っ張り出せと。

とにかく散々言われた。いくら何でも心配かけすぎだろうと私は思った。

「まあ、数年間も連絡もなかったんだからな。死んでるとは誰も思っていなかったみたいだけど」

「そういえば、聞きに行った人の彼女の印象もぼろくそだったな」

「でも、予想以上にまともだったな」

「まあ、ね」

 彼女が優しくするのは患者だけでそれ以外の人間に対してまるで興味を示さないとか。

近づいただけで毒殺されるとか。その他もろもろの話を聞いただけで会う気が失せてしまった。

逆に言えば、噂をそう簡単に信じないとも考えられる。物は言いようである。

会話は途切れた。隣から荷物を物色する音が聞こえてくる。整理をまた、始めたようだ。

またしばらく壁に身を預けていると、頭がぼんやりとしてくる。

もう寝てしまおうかと思った。横になれば、いつでも眠れそうだ。

「……正直、どう思ってんの?」

「何が?」

「この状況っていうか……アンタ、何も言わないじゃん。

これまでだって、俺が何しでかしても、絶対に怒鳴り散らさないしさ」

「急にどうした?」

突然の質問だった。眠気が軽く飛んだ。

 

 

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