依り代がたどる道 第14歩目


 

 やはり僕らは逆らえないらしい。絶対に連れてくるように。

抵抗するようなら容赦はしなくていい。上からそう言われてしまえば、本当にやるしかないのだろう。

「さて、聞いているだろうけれど君たちは解放されることになりました。

おそらく、君たちは向こうに戻り次第、何かしらの仕事が割り振られると思います。

日時などはまた詳しく話すと思うから。何か質問ある?」

沈黙が流れる。予想以上に冷めた反応だ。

今すぐ向こうに戻れるといわれて、そう簡単には喜べないだろう。

裏があると思われてもおかしくない。

「先生はどうするのさ? こっちにいるの?」

「君たちと一緒に戻るつもりだけど」

僕がそう答えて、また沈黙。

「なあ、ここって閉鎖しないんだよな?」

「あー……そこは向こうの管理人と話してみないと分からないや」

「ならさ、閉鎖しなかったらまた戻れるのか? ここに」

何を言っているんだろうと、この時は本気で思った。ここは戻るべき場所じゃない。

閉じ込める場所に帰ってどうするというのだろうか。それ以外には聞かれたことはない。

どうして向こうに連れて行かれるのか、という質問はなかった。それが何となく不気味だった。

 僕が話したあの日以来、誰も口にしなかった。

収容所の整理やら、書類をまとめなどでバタバタして忙しかったのもあるだろうが、聞いてこないのも不思議でしょうがない。

「君たちはさ、おかしいとは思わないのかい? 

何の前触れもなく、貴方たちは自由です。

あとは好きに生きてください、なんて。何かあるとは思わないの?」

片づけが一通り終わったある日の夕飯。僕はそれとなく聞いてみた。

そんな疑問を抱いてもおかしくないはずだ。それなのに誰も言ってこない。

「正直なところを聞かせてくれないかな?」と周りを見渡した。

右手に座っていた彼女が代表して席を立ちあがった。

「確かにきな臭さを感じる話ではあります。でも、あなた以外に信じられる人もいませんし。

断ったところでどうせ、ろくな目に合わないのでしょう? なら、行くしかないじゃないですか」

「看守殿は僕たちみたいな手のかかる囚人がいなくなって、せいせいするんじゃないのって思っていたんだけどね。

どうも違うらしいねえ?」と水をぐいと飲む。にやにや顔で笑いながら、僕を見る。

そんなつもりで話したわけではないのだが。

「しょうがねえなあ……じゃあ、これ預かっといてくれよ」

誰かがため息をつきながら、拳銃を僕に差し出した。ランプの小さな火がそれを照らす。

「これは?」

「頭は動かせても体は全然ダメだからなー……一応、護身用にな」

「護身用って……僕は平気だから。大丈夫だよ」

「弾と火薬は部屋のベッドの下にあるから。好きなだけ使ってくれ。

あ、帰ってきたら返してもらうからな! 絶対にだからな!」

「はいはい。分かったよ……そういう君は大丈夫なの? 死んだら元の子もないよ」

「別に俺はいいんだよ! 剣すらまともに振れないあんたよりかはな!」

「頭もできなきゃ、あまり意味ないけどねー」

「うるせっ! ほっとけ!」

その指摘にみんなが笑う。

「だから! 帰ってくるまで絶対に死ぬなよ! いいな!」

絶対に死ぬな、か。生きて帰って来られると決まったわけではないのに。

何をされるのか、僕でさえ分からないのに。それでも前を向いて、希望を失っていない。

それが何だかうらやましく思えた。

「俺たち絶対に帰ってくるから! その時にはさ、いろんな話聞かせてやるよ!」

「帰ってくるって……ここは君たちの家じゃないんだけど」と苦笑する。

「ようやくこんな狭苦しいところから解放されるんだよ? 嬉しくないの?」

「帰ってくるなと言われても、みんなここ以外帰る場所がないんだよねえ」

そう言って、全員がうなずく。彼らに帰る場所がないのは僕だって分かっている。

できれば帰る場所を用意してあげたいところだ。

 

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