依り代がたどる道 第16歩目


 

あの二人をよほど信用していないらしい。あれだけのことをすれば当然と言えば当然なのかもしれない。

「まあ、隊長が無事ならそれでいいんだけど。

こっちはあの白い子がいなくなって、すっごい騒ぎだったんだから」

「こつぜんと消えたとかでな。まさに都市伝説って感じでさ。

依り代、だったか? 何かよく分からないけど」

「結局、あの子の正体は分かっていないんですよね。あの二人から何か聞いていませんか?」

何か聞いたどころか、とんでもないことを向こうで発見してきた。

ここで言ってもいいのだろうか。いや、彼女が神と繋がっていると言っても信じるはずもないか。

「いや、彼らもよく分かっていないみたい」と黙っておいた。

変な噂がこれ以上広まっても仕方がないだろう。

「そっか。何か知ってると思ったんだけどな」とみかん。

「何も聞かされていないんだろ。きっと。俺らだって知らされていないんだし」と投げやりに言うくちば。

あの子に関することは限られた人間にしか知らされていないらしい。

彼女を預けられた二人も含まれていないのは疑問だ。

「そういえば、つゆ君がぶっ倒れたときに診察したって聞いたよ。

その時はいろいろと協力してあげていたみたいだね」

「まあな」

「どうせ、君たちのことだからさ。

彼らを追い返そうとしたりきつい言葉をかけたりしたんだろうし。

つゆ君のことをいじめたりしていたことは予想できるんだけれどね?」

それぞれ思い当たる節があるのか、目をそらす。ぼたんはそんな二人を冷めた目で見ていた。

「そうだ、聞いてくださいよ! 大体、私が言ったんですよ! 

そこの使えない馬鹿二人は渋っていたんです! あの時、全然動かなかったんですよ? 

とんでもなく嫌そうな顔してましたし! あそこのメイドさんはこっちまで突っ走って来たっていうのに!」

あの皮肉っぽい態度の彼女が走って来たのか。想像もつかない。

しばらくの沈黙が下りる。

「分かった。とりあえず、君ら二人に対しては何か罰でも考えておきましょう」

「そんなに気にしていたんですか? 彼」

「そういうんじゃなくて。幹部全員から僕を連れ戻すように言ったって、彼から聞いたから」

「てっきり俺たちもな、第一収容所の管理人殿と囚人たちと一緒に帰ってくるって思っていたんだ。

まさか残るとは思っていなくて、な。ずっと心配してたんだよ。

連絡もない。帰ってくる気配もない。もしかしたら、すでに死んでいるんじゃないかってさ。

この二人ともいろいろ話してたし。隊長はいつ戻ってくるんだろうってな」

「でも、あの二人はそう思っていなかったみたいだけどね」

何の音沙汰もなければそう思われて当然だ。僕も死ぬつもりでいたのだから。

こちらに戻ってくるつもりなんてなかった。

「あの人もすごいもんだよ。アンタが生きているとも限らないのにな。

よくもまあ、あそこまで動けるもんだ。ていうか、どうやってあの青いのに言うこと聞かせたんだか。

言うことを聞いてるの見たことないのにな。

そういや、あの白い子もどうやってあそこまで行ったんだか」

「どうもシロちゃんは船を使ってなかったみたいなんだよね」

僕がそういうと三人は目を丸くした。彼女を収容所の一部屋で眠っていたのを見つけたこと。

その時に船のようなものは一切見つからなかったことを話した。

「それこそ、鳥みたいに飛んで来なきゃ無理だしさ。

あの子自身もどうやって来たか、記憶にないって言ってたし」

「その依り代がさ、こっちに来て本当に最初の方は牢獄に入れられて管理されていたって話、隊長は知ってる?」

彼女がこちらに配属されてしばらくの間は、牢獄に閉じ込められていたらしい。

それこそ、重要な宝物でも扱っているような待遇だったらしい。

監視人をつけて、誰ひとり通さないようにしていたようだ。

だが、残念ながら、地下牢に閉じ込めたくらいでは大人しくするような彼女ではなかった。

どれだけ警備を厳重にしても、彼女は逃げ出してしまう。

それこそ、あの二人の目を盗んで僕の島までやって来たように。

結局、あの町はずれにある大きな屋敷で、彼女の面倒を見るように任せたらしい。

彼は話を続ける。

「じゃあ、あの子がどうやって脱走したか。何でも手品みたく消えるんだってさ。

あの子を担当した監視役の話によれば、竜巻みたいな暴風を起こして跡形もなくどこかに行ってしまうんだ。

地下牢の部屋に何度ぶち込んでも、脱走されちゃって話にならないんだって。

それで、あの二人のところに任されたんだ。やっと落ち着くかと思ったら、全然そんなことなくてさ」

「何が言いたいの?」

「もしかしたら、また竜巻を起こして隊長のところに行ったんじゃないかって」

竜巻に乗って彼女はやって来たのだろうか。あの二人のいないところで風を起こす。

彼女にそんな力を与えたのは誰か。神くらいしか思い浮かばない。

目的は閉じ込められてしまっては、世界が見られなくなるから。と言ったところか。

ただ、それだけ派手なことをやれば報告の一つくらい入りそうなものだ。

案外近くに目撃者がいるかもしれない。

 

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