依り代がたどる道 第19歩目


 

 僕たちは逃げるように道を進んでいった。嵐が去った後の様に静かだ。

「まさかあそこにいるとは思いませんでしたよ。

周りの人が避けて通っているから、何かとは思っていたんですが」

本当に機会が悪い。できれば、無視してほしかったくらいだ。

「それで、何をしていたんです? あんなところで」

「特に何も。あの人の言っていた通り、つい先ほどまで情報共有してたんです。

依り代のことやらつゆ君のことやら。いろいろと」

 「そうだったんですね、てっきり何かあったのかと」

ほっとしたように、息をつく。

「ま、あの人のことですからね。殺さないなんて選択、与えてくれるとは思えませんよ」

この言葉に、彼はぴくりと反応した。

「あまりつるまない方が身のためです。あの人は自分の目的のためなら手段を選ばないから」

あの人は誰だって利用する。よほどのことがない限り、自分からは絶対に動かない。

それはこの人だってよく分かっているだろう。

「だから、毒なんて渡されたんじゃないですか?」

オトモダチだから、それはあの人にとっては都合のいい言葉でしかない。

白黒はっきり決めていれば、今頃こんなことにはならなかったのに。

足を止めて、はなは僕をまっすぐに見る。

 

「ひとつ聞いてもいいですか? どうして彼らを誰かに任せたりせず、自分の手元に置いているんです? つゆ君ならともかく、シロは僕たちのところにおいてもいいと思ったんですが」

「別に私自身が嫌ではなかったからですよ」

「そんなもんなんですかね」

「学者殿だって、囚人たちの面倒を見ていたでしょう。嫌がらずに」

「アレは頼まれていたからですよ。他にする人もいませんでしたから」

あの時の状況と今では話がまるで違う。少なくとも、同一にはできないはずだ。

「それなら、つゆ君はどうしてでしょう? 彼を嫌う人間は多い。

彼の行ってきたことも、当然、分かっているでしょう? 

それらを把握している上で、どうして近くに置いておくんですか? 

正直、あなたが執着しているようにしか見えないのですが」

「執着しているつもりはありませんよ」

「残念ながら、そんな風には見えないんですよ」

「そうなんですか」

「ずっと二人でくっついてりゃ、そりゃあね」

「確かにそうかもしれませんね」

うなりながら考えているあたり、納得いっていないようだ。

深く考えるほどのことなのだろうか。自覚がなかったら、相当質が悪い。

僕にはどうしようもできない。

「あの人と同じことを聞くんですね。そこは管理人同士と言ったところでしょうか。

確かに同情しましたよ。かわいそうだとも思いました。

ですが頼まれなくても、助けていたと思いますよ」と半ば面倒くさそうに答えていた。

同じ質問を何度も繰り返しているからだろう。いい加減、うんざりしているのかもしれない。

「同じにするなと言いたいところですが。

ま、そんな優しすぎるあなただからこそ、あの二人を放っておけなかったんでしょうね。

その性格はうらやましい限りだ」

「どうも情が移りやすい性格でしてね。人を切り捨てられるような冷徹さがどうにも欠けているみたいで。

困ったもんです」とお互いに肩を落とした。

 

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