分かる奴にはぎょっとされた表情で振り向かれ、そそくさと逃げていく。
分からない人はそのまま素通りしていく。先を歩く二人はもう慣れているのか、さっさと歩いていく。
ところで、どうして僕はこんなことをしているのだろうか。
どうして、僕は仕事の休憩中に大通りを歩いているのだろうか。
諸悪の根源は一体、何をしているのだろうか。
そんなことを考えながら、二人の後ろを歩く。
諸悪の根源ことはなは、どうしても外せない用事があるとのことだった。
朝早くから出て行ったようだから、誰かに呼び出しでも食らったのかもしれない。
この前会ったあの人にでも、呼ばれたのだろうか。そんなものは無視すればいいのに。
また何を吹き込まれるか、分かったもんじゃない。
とにかく、何を言われようが、僕は知らない。相談されても、愚痴を聞かされても、僕は知らない。
この件に関しては無関係を決め込むことにした。いちいち相手にしていられない。付き合っていられない。
何度も言い聞かせる。
「あの、すみません」
「何です?」
「明日、ちょっと予定が入ってしまいまして。二人のこと、見てもらってもいいですか?」
はなに話しかけられたのが昨日のことだ。あの二人なら放っておいても大丈夫だと思う。
遅い時間になっても、ちゃんと戻ってきている。何を心配しているのだろうか。
「あなたにどうしても、会いたいと言っている方がいまして」
「おおっと?」
それは予想外だ。どうして会いたいのだろうか。畑が違うとかそれ以前の問題だ。
「おそらく、あの時の騒ぎを見ていたんだと思います。
それで、話を聞きたいと」
あの後に聞いた話だが、収容所の管理人二人とはな隊長がもめていたように見えていたらしい。
三人からは、大通りでもめていたと聞いて、心配していたらしい。
確かに人だかりの中で、誰かに見られていてもおかしくはない。
「それで、いつでもいいから暇なときに来いと伝えるように言われてしまいまして」
「あれ、でも明日はいないんですよね?」
僕がそう言うと気まずそうに眼をそらした。
「何であなたがいないときに約束したんですか」
「すみません。私も後で合流するので、どうにか」
「どうにか、じゃないですよ。本当、どうなってんですか」
若干いらつきつつも、付き合っている僕も僕だ。
どうしてこんなことをしているのだろう。
というか、空いてる日に会ってもらえばよかったのではないだろうか。
それに気がつき、実行しようにも、もう遅かった。
二人の後ろをついて行って、着いたのが二階建ての白いレンガ造りの建物だ。
二階の窓はカーテンで閉め切られ、中は伺えない。そのことから、二階は誰かの住まいであることが考えられる。
一階が食堂となっているらしく、足元に看板が置かれている。
木枠にはめられた黒板には白のチョークでお勧めの商品が書かれている。
今日はじゃがいもと鶏肉の煮物であるらしい。茶色の板で作られた四角い扉には同じ色の取っ手だ。
その横にあるのは呼び鈴らしく、ベルの下にはひもが垂れ下がっている。
つゆがそれを引っ張って鳴らすと、中から女性が現れた。
「どうも」
「こんにちはー」
「あれ、今日はどうしたの? そちらの方は?」
「例の管理人だよ、この前話しただろ」
「へえ。噂は聞いているわ。初めまして。私はしおん。よろしくね」
薄い紫色のシャツの上に白いエプロンを身に着けている。