茶色の髪を短く切りそろえている。いかにも食堂をしきるおかみさんといった感じだ。
「二人から話を聞いた時からね、会ってみたいって思ってたの! 嬉しいわぁ!」
僕は軽く会釈をする。あの騒ぎについていろいろと話をしたいらしいが、何を聞きたいのだろうか。
とりあえず、僕を嫌っているような雰囲気はない。
「どうも。こんにちは」
「?」
「どうかしましたか?」
まゆをひそめて、僕をじろじろと見ている。
「……まさか、いえ。そんなことはないわね。はなは嘘をつかないもの」
「何言ってんの?」
「何かおかしいですかね、僕」
一瞬にして、彼女の顔が青ざめた。何だか嫌な予感がする。
「うん? ちょっと待って……どういうこと? あの人女性じゃないの?
理解が追いつかないんだけど……」
ぶつぶつ言いながら、つゆの顔を見ている。
男だと勘違いされてしまったらしい。
いつものことだと割り切るが、違和感をもたれてもしょうがないのも事実だ。
一人称が「僕」だから。それが、男であると勘違いされる理由のほとんどである。
あとは声の区別がつかないとか、胸がないからとか、あれこれさんざん言われてきた。
あまり突っ込まれても困る。気がついたら、こんな話し方になっていたとしか言いようがない。
そう簡単に治せるものでもない。というか、治す気がないというのが本音である。
ただ、これ以上話が広がるのは面倒だ。
「ちょっと待ってくださいよ。落ち着いて、ね。初めてですよ。
初見だとやはり、男だと思われてしまうみたいでして」
「もうやっぱり女の人なんじゃない。びっくりするじゃないの」と改めて彼女は僕を頭から足の先までじっくり見る。
初めて見るとはいえ、そんなに僕が珍しいのだろうか。
この前も似たような仕打ちを受けた。初対面の人間にそこまでされる覚えはないのだが。
「で、そんなあなたが噂の管理人さんか」と納得したように言う。
「ええ。第二収容所管理人です。通称、趣味がいい方の管理人です。
または医療班及び死体処理班隊長です」
「何その呼び名。趣味がいいってことは、趣味が悪い方もいるの?」
「ええ。それはそれは、とんでもなく悪趣味な人間が管理を任されているのですよ」
「へえ。それは楽しそうで何よりね」
「楽しい、かどうかは分かりませんが」
「それにしても、うちの子たちがかなり迷惑をかけてしまったみたいで。大変だったでしょう?」
「うちの子?」
「そ。うちの子」
つゆとシロの二人の肩をたたく。
「親になった覚えはないんだけど」
「産んだ覚えもないけどね。ま、詳しい話をしたいなら夜にでも来てくださいな。
その時には、はなもいるのでしょう?」
「ええ、そうですね」
「じゃあ、いろいろと作って待ってるわね。夕飯ついでにいろいろとお話ししましょうよ。
それに今からだと人も増えてくるし。相手にできそうにないもの」
「手伝おうか?」
「大丈夫よ。三人で遊んでらっしゃい」
三人で遊んでどうしろと言うのだろうか。少なくとも、僕は仕事があるのだが。
「それでは、また後でね」と、彼女は店の中に入ってしまった。
結局、出直す羽目になってしまった。これなら夕方に来ても変わりはなかったではないか。
「どうする? 僕は仕事に戻るけど」
「なら、一回解散するか? 遅くなったらシロ連れてそっちに向かうけど」
「分かった。受付で待ってるよ」
「じゃあ、また後でね」
二人と別れ、僕は足早に病棟へと向かった。