依り代がたどる道 第20歩目


 

 茶色の髪を短く切りそろえている。いかにも食堂をしきるおかみさんといった感じだ。

「二人から話を聞いた時からね、会ってみたいって思ってたの! 嬉しいわぁ!」

僕は軽く会釈をする。あの騒ぎについていろいろと話をしたいらしいが、何を聞きたいのだろうか。

とりあえず、僕を嫌っているような雰囲気はない。

「どうも。こんにちは」

「?」

「どうかしましたか?」

まゆをひそめて、僕をじろじろと見ている。

「……まさか、いえ。そんなことはないわね。はなは嘘をつかないもの」

「何言ってんの?」

「何かおかしいですかね、僕」

一瞬にして、彼女の顔が青ざめた。何だか嫌な予感がする。

「うん? ちょっと待って……どういうこと? あの人女性じゃないの? 

理解が追いつかないんだけど……」

ぶつぶつ言いながら、つゆの顔を見ている。

男だと勘違いされてしまったらしい。

いつものことだと割り切るが、違和感をもたれてもしょうがないのも事実だ。

一人称が「僕」だから。それが、男であると勘違いされる理由のほとんどである。

あとは声の区別がつかないとか、胸がないからとか、あれこれさんざん言われてきた。

あまり突っ込まれても困る。気がついたら、こんな話し方になっていたとしか言いようがない。

そう簡単に治せるものでもない。というか、治す気がないというのが本音である。

ただ、これ以上話が広がるのは面倒だ。

「ちょっと待ってくださいよ。落ち着いて、ね。初めてですよ。

初見だとやはり、男だと思われてしまうみたいでして」

「もうやっぱり女の人なんじゃない。びっくりするじゃないの」と改めて彼女は僕を頭から足の先までじっくり見る。

初めて見るとはいえ、そんなに僕が珍しいのだろうか。

この前も似たような仕打ちを受けた。初対面の人間にそこまでされる覚えはないのだが。

「で、そんなあなたが噂の管理人さんか」と納得したように言う。

「ええ。第二収容所管理人です。通称、趣味がいい方の管理人です。

または医療班及び死体処理班隊長です」

「何その呼び名。趣味がいいってことは、趣味が悪い方もいるの?」

「ええ。それはそれは、とんでもなく悪趣味な人間が管理を任されているのですよ」

「へえ。それは楽しそうで何よりね」

「楽しい、かどうかは分かりませんが」

「それにしても、うちの子たちがかなり迷惑をかけてしまったみたいで。大変だったでしょう?」

「うちの子?」

「そ。うちの子」

つゆとシロの二人の肩をたたく。

「親になった覚えはないんだけど」

「産んだ覚えもないけどね。ま、詳しい話をしたいなら夜にでも来てくださいな。

その時には、はなもいるのでしょう?」

「ええ、そうですね」

「じゃあ、いろいろと作って待ってるわね。夕飯ついでにいろいろとお話ししましょうよ。

それに今からだと人も増えてくるし。相手にできそうにないもの」

「手伝おうか?」

「大丈夫よ。三人で遊んでらっしゃい」

三人で遊んでどうしろと言うのだろうか。少なくとも、僕は仕事があるのだが。

「それでは、また後でね」と、彼女は店の中に入ってしまった。

結局、出直す羽目になってしまった。これなら夕方に来ても変わりはなかったではないか。

「どうする? 僕は仕事に戻るけど」

「なら、一回解散するか? 遅くなったらシロ連れてそっちに向かうけど」

「分かった。受付で待ってるよ」

「じゃあ、また後でね」

二人と別れ、僕は足早に病棟へと向かった。

 

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