その後は彼らが来るまで大人しく、働いていた。病人の面倒を見たり、薬を渡したり、いつものように過ごしていた。
辺りが暗くなってきたころ、二人が病院の待合室までやって来た。
みかんも一緒についてきている。どうやら、途中で捕まったらしい。
「あ、いたいた!」
シロが僕を見て駆け寄ってきた。後ろからあからさまに嫌そうな表情を浮かべたみかんが、二人についてきている。
「ったく……隊長に用があるんならさっさと言えや。このボケ」とみかんがつゆの肩を突く。
「いや、あんたが話を聞かないんだろうが。追い出そうとしやがって」
「みかん」
「へいへい。じゃ、お疲れ様でした」と、近くの病室に逃げた。
「どうも変な因縁ばかりつけられる」
「悪いね。後でちゃんと言っておくから」
あの様子だと、かなり嫌われているようだ。
警戒心といえばそれまでなのだが、本人は納得いっていないようだ。
彼が倒れた時も動かなかったのだったか。
近づきたくないのも分からないでもないが、ここまで行くと態度が悪すぎる。
「まあ、とにかく行くか」
やれやれと首を振りながら、その場を後にした。
二人を連れて、約束した通り店に向かった。
店の看板は出ておらず、仕込中と書かれた板が扉に下げられている。
入っていいのか迷っているうちに、扉を開いた。
「あら、いらっしゃい! 奥の方が空いているから、座って座って!
お店は閉めちゃったし、のんびりできると思う」
カウンター越しに笑顔で出迎えてくれた。入口から見て左の壁には、大きな剣が飾られている。
いかにも、戦場で振るわれていたような雰囲気を感じる。この店の内装とあまり似合っていない。
「そういえば、はなはどうしたの?」
「あっちこっち探したんだけど見つからなくって……どこに行ったんだろう」
「あの人のことだから、そのうち来るとは思うんだけど」
「珍しいわね……何かあったのかしら」
そういえば、今日は一日姿を見ていない。僕たちは何も聞かされていない。
合流するとは言っていたから、そのうち来るだろうとは思うの。
まさか、そのまま来ないわけじゃないだろうな。あの人。
「まあ、待っていても仕方がないしな」
「じゃあ、準備してくる。ちょっと待っててね」
先に食べて待っていることに決まった。四人分の料理が運ばれた。
しおんいわく、「ようやく食べれる」とのことで、一緒に食べることになった。
昼間の残りと思われる野菜の煮込みとサラダ。ハムとチーズのサンドイッチが二切れ。
夕食のときはあまり見かけない顔ぶれだ。何だか新鮮な気分だ。
こういうのもたまには悪くないと思いながら、食べ始める。
「ねえ、どうだった? 向こうの生活は」
「悪くはなかったよ。海と空と本に埋もれてたけど」
「本?」
「収容所の整理を手伝ってもらっていたんです。
そうしたら、何か本が大量に出てきちゃって……第一収容所の管理人が残していたらしいんです」
大量の本を見つけたのは間違いではない。だたしそれが読めるとは、限らない。
シロに関する記述が載っていたが、政府の人間にも話していないことを話す必要もあるまい。
「置き土産ってこと? 大変だったのね」
「いや、別に。すぐに終わったし。面白い発見もあったしね。
それにしても、この人さあ、数年くらい引きこもってたみたいでさ。
色んな人たちから『無理やりにでも引っ張り出せ』って言われてたんだ」
「あら、そんなこと言われてたの? なら、よっぽど心配されてたのね」
向こうに戻ってきて、それはやっと実感した。