依り代がたどる道 第21歩目


 

 その後は彼らが来るまで大人しく、働いていた。病人の面倒を見たり、薬を渡したり、いつものように過ごしていた。

辺りが暗くなってきたころ、二人が病院の待合室までやって来た。

みかんも一緒についてきている。どうやら、途中で捕まったらしい。

「あ、いたいた!」

シロが僕を見て駆け寄ってきた。後ろからあからさまに嫌そうな表情を浮かべたみかんが、二人についてきている。

「ったく……隊長に用があるんならさっさと言えや。このボケ」とみかんがつゆの肩を突く。

「いや、あんたが話を聞かないんだろうが。追い出そうとしやがって」

「みかん」

「へいへい。じゃ、お疲れ様でした」と、近くの病室に逃げた。

「どうも変な因縁ばかりつけられる」

「悪いね。後でちゃんと言っておくから」

あの様子だと、かなり嫌われているようだ。

警戒心といえばそれまでなのだが、本人は納得いっていないようだ。

彼が倒れた時も動かなかったのだったか。

近づきたくないのも分からないでもないが、ここまで行くと態度が悪すぎる。

「まあ、とにかく行くか」

やれやれと首を振りながら、その場を後にした。

二人を連れて、約束した通り店に向かった。

店の看板は出ておらず、仕込中と書かれた板が扉に下げられている。

入っていいのか迷っているうちに、扉を開いた。

「あら、いらっしゃい! 奥の方が空いているから、座って座って!

お店は閉めちゃったし、のんびりできると思う」

カウンター越しに笑顔で出迎えてくれた。入口から見て左の壁には、大きな剣が飾られている。

いかにも、戦場で振るわれていたような雰囲気を感じる。この店の内装とあまり似合っていない。

「そういえば、はなはどうしたの?」

「あっちこっち探したんだけど見つからなくって……どこに行ったんだろう」

「あの人のことだから、そのうち来るとは思うんだけど」

「珍しいわね……何かあったのかしら」

そういえば、今日は一日姿を見ていない。僕たちは何も聞かされていない。

合流するとは言っていたから、そのうち来るだろうとは思うの。

まさか、そのまま来ないわけじゃないだろうな。あの人。

「まあ、待っていても仕方がないしな」

「じゃあ、準備してくる。ちょっと待っててね」

先に食べて待っていることに決まった。四人分の料理が運ばれた。

しおんいわく、「ようやく食べれる」とのことで、一緒に食べることになった。

昼間の残りと思われる野菜の煮込みとサラダ。ハムとチーズのサンドイッチが二切れ。

夕食のときはあまり見かけない顔ぶれだ。何だか新鮮な気分だ。

こういうのもたまには悪くないと思いながら、食べ始める。

「ねえ、どうだった? 向こうの生活は」

「悪くはなかったよ。海と空と本に埋もれてたけど」

「本?」

「収容所の整理を手伝ってもらっていたんです。

そうしたら、何か本が大量に出てきちゃって……第一収容所の管理人が残していたらしいんです」

大量の本を見つけたのは間違いではない。だたしそれが読めるとは、限らない。

シロに関する記述が載っていたが、政府の人間にも話していないことを話す必要もあるまい。

「置き土産ってこと? 大変だったのね」

「いや、別に。すぐに終わったし。面白い発見もあったしね。

それにしても、この人さあ、数年くらい引きこもってたみたいでさ。

色んな人たちから『無理やりにでも引っ張り出せ』って言われてたんだ」

「あら、そんなこと言われてたの? なら、よっぽど心配されてたのね」

向こうに戻ってきて、それはやっと実感した。

 

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