「あ、ねえねえ。私が本当に竜巻を起こしたのかどうか知りたいんだけど。どうすればいいんだろ」
ふと、シロの口から出た。いくら自分自身で突風を起こしたと言われても、とても信じられないのだろう。
普段からそのようなことができると言われていたわけでもない。
できるものでもないのに、制御しようとしたって仕方がない。
客観的に見られるものなら、ぜひとも見たい。それが情報として残るのであれば、最高だ。
そこで思い浮かんだのが、この国の地図を管理している部署だ。
人手不足なのもあいまって、部屋から人が出てきたのを見たことがない。
応対する暇もないのか、部屋の横にポストが設置されている。
そこに面会時間を記入して入れておけば、どうにか時間を作ってくれるらしい。
二日後の午後と記入し、箱に入れた。
「はいはーいっと……あら」
約束の日にシロを連れて部屋に向かうと、茶色の髪が扉を開けた。
毛先は落ち着かずにはねており、手入れがあまりされていない。
帝国技術開発及び地理管理局、部長のあずきだ。僕たち二人の姿を見て、やや大げさに手を口に当てた。
「あらあら、誰かと思えば珍しい。うちに何の御用かしら?」
「忙しい中、どうもありがとうございます。少し聞いてみたいことがありましてね」
「もちろんいいわよー」
入口から先が進めない。紙束や本は山のように積まれ、何に使うかよく分からない空き箱がそこらじゅうに散乱している。
足の踏み場もない。癖のある髪をそのまま部屋で示したかのようだ。
シロは口を開けて、入口で突っ立っている。進みたくとも進めず、困っているようだ。
ここに悪趣味な管理人を連れてくれば、発狂して掃除を始めるかもしれない。
掃除と片付けだけは誰よりも得意なのだ。
「これじゃ通れないね? 待ってて。今どかしちゃうから」
紙の束の上にまた紙の束を置く。紙を載せるたびに揺れる。今にも崩れ落ちそうだ。
数分後には、玄関前に道は開かれた。部屋の中心にある椅子まで、続いている。
しかしその脇に置かれた紙は塔のように重なっている。倒れないことを祈るばかりだ。
「で、今日はどのような用事で?」
「彼女が失踪していた期間について気になることがありまして」
「失踪? ああ、そういえば探しに行ってたんだっけ?
で、何でそれをあなたが聞きに来るの? あの二人が聞きに来るってんなら、まだしもさ」
「休憩ついでに、話を聞きに来たんですよ。それに、ここなら話が早いと思ったから。
得意でしょ? こういうの」
「まあ、別にいいけど。ちょっと待っててね」
器用に山をよけながら、作業場である大きな機械の前に座った。
板の上に並べられた突起物を打ち始める。機械に文字が流れ、列をなしていく。
この文字列で地図を管理し、人の動きを読み取っている。
機械をどこから手に入れてきたのかも分からないらしい。
一度聞いてみた時は、「先代の時からあった」と返された。
その先代も似たようなことを言っていた。この機械に関しては、ある意味大きな謎を呼んでいる。
彼女の操作がよく分からないので、見ているだけだ。
他の人にも分からないらしく、扱える人物はほとんどいない。
この管理局には彼女以外に、数人いるだけだ。人手がいつも足りていないと、彼女自身は嘆いている。
「そういえば、依り代ちゃんは初めてよね?
私たち帝国技術開発及び地理管理局はね、地図の管理とかそういうのをやってるの!」と、勝手に自己紹介をし始める。
作業の手を止めないまま話し続けるので、一種の音楽のように聞こえる。
「地図の管理?」
「そう! 地図! 個人の居場所を簡単に把握できちゃうっていう、それはそれは素晴らしい技術なのよ!
個人の居場所を間違えないように管理するのはもちろん、地形を把握するのにも役立ってるんだから!
それをね、人じゃなくて! この機械がやってるの! ここが一番重要なところよ!」
「?」
「うーん……ちょっと難しいかしら?」
どう説明したものかと、首をひねっている。