これまで何度も言われていたように、五体満足で帰って来れたこと自体、奇跡のようであるらしい。
「あなたもあの二人のことをまるで聞いていなかったわけじゃないでしょう?
だからさ、余計思うのよ。何でこんな女の子を二人に預けちゃったのかなって。
本当、上の連中の考えていることは分からないわ。何なんだろうね」
「じゃあ、どうするべきだと考えているんです?」
「教会にでも預けちゃえばいいのにって思う。それか、いつも暇しているうちのところ」
びしっと自分を指さす。
「それは自分の部署に預けることで、あなたの株を挙げたいだけでは」
「それでも、あの二人よりはマシだと断言するわ」
「自分で言うんですか」
「私が言わなきゃ誰が言うのよ」
はっきりと断言した。何という自信だ。過剰なんてもんじゃない。
自信あふれるその笑顔を見て、思わず黙ってしまう。
「ね、シロちゃんはどうかな? うちのところ」
「どうって言われてもなあ……けど、もうちょっと掃除してほしいかも。
こんなに汚いところで、よくお仕事できるよね」
「ほら、言われてますよ。今度、みんなで大掃除しましょう」
あずきの方を見ると、しきりに頭をひねっている。
「……大掃除は毎年やってるんだけどなあ」
これだけのごみが積み重なっているところを見ると、数年前の書類とかでてきそうなのが怖いところだ。
そもそも、掃除をすること自体、習慣としてについていないように思える。
まずは、定期的にごみを捨てるところから、始めた方がいいかもしれない。
「ちなみに、あの二人はどうなの?」
「割ときれいだよ。まあ、つゆは物がないって感じだけど」
「無駄な物は置かないってことなのかな? 何か意外ね。
あ、でも、片付けてくれる人がいるんだもんね。そりゃそうか。参考にもならないわね」
あの二人の屋敷には、命令でやって来たメイドがいる。
そもそも、比べること自体、間違っているのかもしれない。
「そういえば、そっちだとこの子はどんな感じだったのよ。
こっちだと、竜巻を起こして消えたんだけどさ。どうだったの。実際に」
実際にどうだったと聞かれても、期待しているような話はできない。
何も変わらず普通に過ごしていた。変化が大きかったのは、彼女を追いかけてきた二人の方かもしれない。
その話を聞いて、頭をかく。
「結構、普通に過ごしてたのね。特に、気になるところもない、と。
ま、それが一番なんだけどね。しっかし……依り代なんて設定、全くおもしろくないってのにね。
そんな名前、子どもにつけるもんじゃないわよね。いかんせん、荷が重すぎる。
この子が神様だとでも、言いたいのかしらね」
なるほど、設定と来たか。都市伝説と言われていたことはあっても、設定は初めて聞いた。
彼女はまるで依り代を信じていないらしい。
「これ以上、私からは何とも言えないわ。何せ、竜巻起したって言っても、私もこの目で見ていないからね。
もしかして、その竜巻で貴方のところまで行ったって、言いたいのかしら? シロちゃんは何か覚えてる?」
「何かみんなあれこれ言うけどさ、全然覚えてないんだよねー。竜巻とか知らないし。
気が付いたら、はなとつゆのところにいたんだもん。それに学者さんのところもどうやって行ったかなんて……」
「これは大変だ。私じゃ、どうにもできないわね」
彼女はおおげさに両手を挙げ、そのまま頭の後ろで手を組む。
「さて、どうかしら。なかなかどうして、面白くなってきたんじゃない?」
「竜巻を起こして、僕のところにまで来たという仮説が立てられそうではありますね」
「あら、素敵。論文にでもまとめたら?」
「これ以上騒ぎを大きくしてどうするんです」
「そりゃそうだ。じゃあ、また何かあったら私たちのところへ。よろしくどーぞ」
「次があったら来ますよ。それでは」
「今度はあの二人も連れて来るね」
彼女は手を振りながら、僕たちを見送っていた。彼女が竜巻にのって、僕の元へやって来たことが明らかになった。
だんだんと、答えに近づいて行っているのを感じる。
そして、強制的な手段でもって、僕たちは神のみぞ知るその答えを知ることとなる。