依り代がたどる道 第25歩目


 

 その日の夜はやけに風が強く吹いていた。

今日のことをはなとつゆの二人に話している最中も、窓はカタカタと揺れ、館全体で風の音が響きわたっていた。

それが不思議と、歌っているようにも聞こえるのだ。

その音で僕は目覚めた。なぜか、落ち着かない。心がざわざわと騒いでいる。

だから、廊下から外を眺めていた。木々が大きくしなり、葉があちらこちらへ舞っている。

 突然、ばっと窓が開け放たれた。強い風が吹き込み、後ろに飛ばされた。

僕は慌てて立ち上がり、窓に手をかけた。風が思いのほか強く、やっとの思いで窓を閉める。

吹き荒れている風の中心にあの子がいた。長くて白い髪が舞っているあの子。

シロが竜巻のごとく吹き荒れている風の中にいた。そして、名前を呼んでも反応しない。

こちらのことにもまるで気がつかず、彼女はかぜとともに舞い上がり、姿を消した。

「つまり、あの子が風を起こして浮いていた。ということですね」

こんなとんでもない話をしても、はなは落ち着いている。今朝、一番に二人に話した。

今までの報告にあった通り、都市伝説にもなったように、彼女は竜巻を起こして姿を消した。

「とてもじゃありませんが、信じられません……と言いたいところなんですがね。

現にあの子はどこかへ消えているのが何回もありましたし、これまでで分かったこともありますから。

不思議でも何でもないのでしょう」

「で、竜巻に乗って消えたとして、どこに行ったんだ?」

はなの机の上に地図が広がっている。場所を知るだけでなく、探したい人の居場所を確認できる。

シロが消えて収容所へ行ったときも、これを使って僕のところに来たのだろう。

現在、彼女は隣町にいる。その先には砂漠が広がっていて、神がいるらしい神殿もある。

この前、話した通りだ。依り代は神殿に向かっていると考えられる。

「もう少し情報を集めておきたいところでもありますが……仕方ありませんか。

準備ができ次第、彼女を探しに行きましょう」

はなはそう言って、この場を締めくくった。予想通りと言えば予想通りだ。

結局は神のいるところに向かっていたはずだ。ただ、少しだけ気に食わないのも事実だ。

彼女が姿を消すことで、僕達が探しに行くのは分かっているはずだ。

神に呼ばれている。そんな気がしてならない。何にせよ面倒だと、僕はひとり呟いた。

「まーた、そうやって隊長の席を空けるんだな。で、今度はどこに行くんだ?」

不満げに僕を見ながら、みかんは言った。

依り代が隣町に消えたと言う話を聞いて、僕がこの場を離れると思ったのだろう。

だから、今日はどうにも不機嫌だった。

「隣町さ。今回はすぐに帰ってくるから、そんなに心配しなくても大丈夫」

書類を片付けながら、僕は笑ってみせる。隣町は長居する場所でもなければ、理由もない。

だから、数週間もすれば帰って来る。

「なー、一つ聞いてもいい?」と、みかんは態度を改めた。

僕の作業の手も思わず止まる。

「本当に大丈夫なのか? あの二人について行って」

今更、何を言っているのだろうか。あの島からはどうにか五体満足で帰って来られた。

危険視されている二人とも仲良くやっている。依り代自体にも害があるわけではない。

特にこれといった問題は無いように思える。

「もしかして、心配してるの? 大丈夫でしょ。あの二人、隊長には手を出さないって」

「隊長だって子どもじゃないんですから。ねえ?」

くちばとぼたんの二人はそう言うものの、どこかにやついている。

そんなに心配なら一緒に行けばとでも、言いたいのだろうか。

「大体、ケンカ売るような真似をしなければいいんだよ。

ずっと見ていて思っていたけどいくら何でも態度が悪すぎる。

警戒するのは分かるけど、いくら何でもさすがに駄目だ」

少しきつめに言うと、みかんは口をつぐんだ。

 

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