何から説明をすればいいのか、私たちですら分からない。未だに言葉にできない存在だ。
「それで、明日から探すわけなんだけど」
簡単に説明を受けたのち、私たちは宿屋に戻って、休憩していた。
「本当に協力してくれるのかな。深く突っ込んでこなかったのはありがたかったけど」
「ああ言ってるんだし、協力してくれるとは思うけど……いいか?
何度も言うけど、依り代のことは、なるべく話さないように」
「分かったって。依り代じゃないアイツのことを話せばいいんだろ?」
依り代じゃないアイツか。まあ、間違ってはいないか。手渡された地図を見る。。
明日から交代で捜索に参加させるらしい。とりあえず、今は荷物を置きに宿屋へ向かう。
「逃げましたね?」
彼女は背後から刃物を突き付けて、私を脅すようにささやいた。
「何のことですか?」
ため息まじりに私は答える。
「どうして来なかったんです? 待っていたんですよ? しおんさん」
一歩ずいと、前に出る。この前の約束のことを言っているらしい。
そういえば、そんなことを言われていた。しおんを紹介すると言っておきながら、私はその場には行けなかった。
会議があったのは本当のことだ。それで、来られなくなってしまったのもまた事実。
確か、あの時は彼女にすべてを任せてしまっていたんだっけ。
仕事の休憩の間に二人に連れ出されたらしいし、何かと面倒をかけている。
あまり邪魔をするなとは言ってあるのだが、どうも聞かない。私の言い方が悪いのだろうか。
それとも、彼女といた方が気楽なのだろうか。そこはよく分からない。
「で、どうするんですか?」
「……また今度に行きますから」
「それっていつです?」
彼女は鋭く切り返す。
「貴方までそんなことを言わないで下さいよ……」
もう何回くらい、同じセリフを言われただろうか。
こうして責められるほど、しおんの元を訪れていないわけでもない。
「どうにも苦手なんですよ。あの人」
「逃げたことは認めるんですね?」
答えるかわりにため息をついた。
「それにしても、あなたにも苦手な物ってあったんですね」
「物ではなく者、ですがね。何だか誤解されてるみたいで……正直、面倒なんです」
「誤解?」
「恋に恋するってやつです。どうかあの口を黙らせてはくれませんかね、お医者さん」
「残念ながら、僕ではどうにもできませんよ」
彼女はおどけながら、両手を上げる。面倒事に巻き込まれるのはごめんだとでも言いたげだ。
「じゃあ、もう手遅れですね」
私は肩をすくめて笑った。
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