「……あの兄ちゃんが助けてくれたんだよ」
「助けてくれた?」
「そう。助けてくれたんだ。だから、何もない。じゃーな、俺はこれで」
ぶっきらぼうに言って、走り去った。助けてくれたから、何もない。
ごかましにもなっていないではないか。とりあえず、けがはしていないみたいだった。
彼があの少年を助けたのは本当のことなのだろう。
もしかして、しぐれの声をはなと勘違いして逃げたんじゃないだろうか。
そう思いながら、つゆが逃げて行った方を見つめていた。
場が落ち着くと、はじけたように周囲の人が目の前で起きたことを話してくれた。
はす向かいの店でガラの悪い男と何やら揉めていたらしく、その後ここにここへ連れられた。
店の代金を支払っていないと、あの男が難癖をつけていたようだ。
反抗的な態度を示していた少年に暴力を振るおうとしていたところを、つゆが見つけて止めたらしい。
そのまま喧嘩になるかと思いきや、相手が一方的に殴られて終わったらしい。
喧嘩には慣れているらしいし、やられることはないだろうと放っておいたとのことだ。
そして、敵わないと分かった相手は逃走し、その後に僕達が駆け付けた。
「ごめんね、全然関係ないことに巻き込んじゃって」
彼は深いため息をついた。ああなってしまっては、依り代どころの騒ぎではない。
こちらも依り代で巻き込んでしまっているし、お互い様だ。
「僕からも話を聞いてみますね」
「ありがとう、助かるよ」
彼は笑みを浮かべた。
その後、聞き込みを再開した。周囲にいた人々に聞いても、誰も見ていないようだった。
日が傾いてから、僕たちは集まった。はなの方も収穫はなかったらしい。
探す範囲を変えた方がいいかもしれない。
「あの、つゆを見かけませんでしたか?」
彼と二人で裏通りの近くで聞き込みをしていたところ、いつの間にかいなくなっていたらしい。
その後、彼を探すも見つからなかったようだ。
「で、お前は何してたんだ?」
つゆに視線が集中する。
「何か子どもが変な奴に捕まってたみたいでさ、止めに入ったんだ。
そしたら、しぐれさんたちが来たもんだから、逃げちゃった。
その後はシロに関して聞いて回ったけど、誰も見てないってさ」
「逃げちゃったって……本当にすみません。迷惑をかけてしまったみたいで」
はなは何度も謝る。どこから突っ込めばいいのかも分からないらしい。
「まあ、明日はちゃんと行動してもらえればいいんだけど」
呆れ顔で彼は言った。本当に大丈夫なのだろうか。
ていうか、見つかるのかこれ。
言葉にならない心配が次第に募っていった。
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