「要は、見張り役。私たち二人で彼女があそこから逃げ出さないようにね」
「調査任務で出張しろだの何だの言われてきたんだけどさ……。
結局、俺らにアイツを押し付ける口実が欲しいだけなんだろうな。アイツは隙あらば脱走しようとするからな。
すげえ大変だった……それで、アンタなら何か知っているんじゃないかって、な?」
ようやくつゆは口を開き、はなを見やる。彼はうなずく。この大脱走を機に、僕に接触したらしい。
「それで、何か心当たりは?」
「僕もシロから初めて聞いたんです。『依り代』って呼ばれているって。
それで、貴方たちに聞こうと思って……とにかく、彼女を連れてきます。小屋の中へどうぞ」
僕は彼らにそう言った。彼らは小屋の中へ入っていった。
「何でいるのよ? 何で来たのよ! 何で分かったのよ! 誰にも話してないのに! こっそり逃げ出したのに!」
シロは彼らの顔を見た瞬間、不満そうに言った。頬を膨らませている。しかし、僕の後ろに隠れている。
二人は扉を背にして、座っている。つゆは口うるさく反論するのに対して、はなは完全に黙殺していた。
「るせえんだよ! クソガキ! ちょこまか逃げ回ってんのはてめえのほうだろが!
黙ってどっか行くなっていつも言ってんだろ! ふざけんな!」
「どこまで追ってくるからでしょ? 鬼ごっこをした覚えはないんだけど!」
「それはこっちの台詞だ! むしろ、どうやってここまで来たんだ!
勝手に船に乗り込んだかと思えば、こんなところにいやがって……!」
「……別になんだって良いでしょ! 閉じこめるほうが悪いんだもん!」
「てか、こんなとこにまで来やがって……どんだけ迷惑かけてんのか、分かってんのか?
大体、何でアンタも疑わねえんだよ。怪しいとは思わなかったのか?」
「……アンタがしつこすぎるだけなのよ。学者さんも何で追い返さないのよ?」
「もうやめろ。お前ら……すみません。顔つき合わせるといつもこんな感じで」
慣れた手つきでけんかを止める。二人はにらみ合った末に、顔をそらした。 どうやら、そちらはそちらで終わったらしい。
「それで、詳しく聞かせてもらっても良いかな?」
「さっき話したとおりです。上が彼女を欲していて、私たちは監視役。監視する理由とか全く話しちゃくれないけど」
「『依り代』ねえ……」
何度言われても全くぴんとこない。帝国にいた時も耳にしたことがない。
見落としているのであれば、本に何かしら載っている可能性はある。
しかし、僕の部屋なんて処分されているに決まっている。今頃、誰かの根城と化しているだろう。
最初からあてになんてできない。 そもそも、どうして帝国はそんなものに執着を見せ始めたのだろうか。
向こうで何かあったとしか考えられない。
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