こんなにぎやかなのも久々だ。彼らが出て行って以来だろうか。
「朝から元気だね」
「おはよう! 学者さん!」
「よう! 先生! はな!」
つゆが手を上げた。
「……先生?」
はなと声が被った。一瞬、思考が止まった。
「アレ……嫌だったか? だったら、ごめんな」
「いいや。そんなことはないよ。久しぶりに呼ばれたからちょっとびっくりしただけ」
「おい……慣れ慣れしいぞ」
つゆにそう言うも、「なら、アンタもそんな風に呼んでみれば?」といたずらっぽく笑う。
「あのなあ……」
はなは呆れたようにため息をつく。
「で、今日はどうするの?」
シロの一言で三人が僕の顔を見る。
「……そうだなあ」
僕は腕を組んでしばらく考えていた。昨日の今日であるから何も考えていなかったのである。
「大掃除?」
僕がそう提案すると、彼女がきょとんとした声で返した。朝食をとっている際、ひらめいた答えだ。
思い付きだとは、口が避けても言えない。
「そう。あっちの方の資料を探すついでにね」
僕の管理している監獄も長い間、掃除していなかった。二人は問題ないと言っていた。
だがよく考えてみれば埃まみれの中、眠っていたのだ。やはり快適とは言えないだろう。
手がかりが全くないのは昨日でよく分かった。本ならこちらにもある。
僕が持ってきたものを含め、先住民たちが残したものもある。監獄の奥深くに眠っている。
それは向こうの島にあるのも同じだろう。よく探せば、何かしらは出てくるはずだ。
「けど、怒られたりしないのか?」
「まあ、あの人っていうか……趣味の悪い管理人が出て行く前に全部処分した可能性はあるけどね」
それでも、向こうの島を離れるときにあの人は言っていた。
次々と受刑者たちが船に乗せられるのを背に、鈍色に光る鍵を手でもてあそんでいた。
どうやら、監獄の鍵は閉めてきたらしい。
『こっちの所有物は残してあるけど、好きにしていいよ。僕にはもう必要ないしね』と。燃やすなり何なりお好きにどうぞと。本人がそう言っていた。間違いはない。ただ、思っているより、あっけらかんとしていた。
執着自体、あまりなかったのかもしれない。
最も、もう開かれないだろうけどね。と彼は皮肉っぽく笑いながら言った。それが最後の別れの言葉になった。
あの人は船に乗る前に、あちらの監獄の鍵を僕に託した。
僕の手元には鍵が2つ。1つはもう二度と開かれないと思っていた。処分しなくて本当によかったと、初めて思った。
だから、物を片付けるのも、探すのも何も言ってこないはずだ。仮に物色するのを分かっていたとしても、だ。
「ですので、僕とシロは向こうの監獄に行ってきます。二人はこちらをお願いします」
僕がそういうと、2人は目を丸くした。
「……え?」
「いや……大丈夫なのか? 1人で」
「問題ありません。大丈夫です」
僕は親指を立てた。
「全然大丈夫そうに見えねえよ……」
「だから、大丈夫ですってば。
こちらの監獄の鍵を渡しておきますので、後はよろしくお願いします」と僕は無理やり、鍵をはなの手に握らせた。